共鳴
私と獅狼はその後も、変わらず二人で過ごしていた。たまに狗太君も交えながら。
天神さんに一日中居ることもあれば、朝と夕方の時も。
私達は獅狼の修行の時間や見回りの時間以外は、一緒に過ごす事が多かった。
一緒に過ごすといっても、勉強する私の傍らで獅狼は読書をして過ごしていた。
私は獅狼と一緒に過ごすようになって、人でない悪しき者が視えるようになっていた。
視えるのは、最初は決まって獅狼と一緒のだった。
獅狼の存在があったから、私は怯えること無く過ごせた。
それが、最近獅狼と一緒にいないときにも視える。
最初は何となく黒い影のようだったが、段々と形が鮮明になってきている。
私は怖くなって三人の時に相談してみた。
「最近、人でない者がみえるんだけど。何故急に見えるようになったの?」
狗太君は「君たちは共鳴しているんだよ。陽葵ちゃんは今まで視えなかった者が見え。獅狼は行動範囲が拡大し、境内から出られるようになった。
出られると言っても君を通してだから、範囲としてはそう広くはないけど。」
獅狼は心配そうな顔で「何かされたか?」
「大丈夫、視えるだけなの。心配かけてごめんね。」
「いつから視えてたの?」
「黙っていて、ごめんなさい。実は夏祭りの前には何となく視えていたの。
心配かけるのが嫌だったから。でも、以前より鮮明に視えるようになって、少し不安になったの。」
「陽葵ちゃんに残る獅狼の気配で、襲ってくる者はいないとは思うけど。
どうする?獅狼、何か持たすか?」
獅狼は頷くと、剪定された御神木の枝の中から丁寧に1本を選んでを拾った。
そして私達に背を向け、何かを念じながら彫っていった。
しばらくして、
「これをいつも持ち歩いてくれ、少しはお守りになる。
俺がすぐに飛んで行けないとき、時間稼ぎにはなるはずだ。」
そう言って、小さいリンゴの木彫りをくれた。
「俺の気を練って込めた。リンゴでなくてもよかったんだが、彫りやすかったから。」少し照れているように見えた。
私は嬉しくて「ありがとう」と言いながら、2つ目のリンゴを大事にポケットにしまった。
「陽葵ちゃん正直言うと、僕は君達がこれ以上距離を縮めるのは、反対だ。
最初に言ったろ、君が過分に望めば苦痛が待っているって。
二人が距離を縮めることは、お互いにとって良い影響はないと思う。
獅狼が君に特別な感情を持つことは、いつか獅狼自身の判断を迷わす。
そして、人と人でない者が距離感を誤ると、弱者である人に危害が及ぶ可能性がある。
それは、陽葵ちゃん自身にいつか危険が迫るということだ。二人とも冷静に考えることだ。」
そう言って去っていった。
残された私の心は、小さな棘が刺さってずっと抜けないようにチクチクと痛んだ。
私達は石段に寄り添って座った。どちらも言葉を発することができず、でも離れがたく。
時が過ぎゆく空をただただ眺めていた。逢魔が時が近づいてきた、帰らなければならない。
長い石段を下りながら、恋人でもない、先の約束もない関係について考えていた。
でも、とても愛しい存在である彼と離れる事もできない。