異界の者
お祭も終わり、人はまばらになってきた。
私達は楽しい余韻で、その場から離れることが出来ずにいた。
二人共言葉少なく、街を見下ろしていた。
何故か、私はもう二度と楽しい事がないような不吉な予感に襲われていた。
いつの間に辺りの人がいなくなっていた。
「そろそろ帰るわね。」気持ちを抑えてやっと言葉にした。
「ああ、そこまで送ろう。」そう言ったシロウも、少し寂しそうに見えた。
その時、暗闇から人影がふらりと現れた。
よく見ると木村君。だけど、木村君じゃない、と本能的に感じた。
まるで人形のように表情がなく、瞳は数日前に見た時と同じ漆黒の闇。
木村君どころか人間かすら定かではない。恐怖に足がすくんだ。
私を見つけ、引き寄せられるように近づいてくる。
木村君の視界から私を遮るように、シロウが私の前に立った。
シロウは困惑したように「何が起っている?結界下なのに。」と呟いた。
そして、何か呪文のような言葉を小さく唱えた。
次の瞬間、シロウ自身が神々しい光を放ち、刀を手に綺麗な構えで立っていた。
木村君、怯むこと無く人とは思えないスピードで間合いを詰めてきた。
シロウは、むかえ撃ったが少し遅れ、木村君の拳がシロウの頬を掠めた。
一度は触れることを許したが二度目は無かった。
シロウは、木村君に向かって斬りかかった。よく見ると木刀だ。
木刀なら人は切れるはずはないがないのに、一瞬本当に木村君は切られたのではないかと思った。
倒れた木村君を抱え、シロウはベンチに寝かせた。
しばらくして目を覚ました木村君は、何も覚えていなかった。
しかし、纏っていた異様な気配はキレイに祓われていた。
彼は、介抱していた私達に迷惑をかけたと、お礼を言った。
そしてシロウを見て「彼氏なの?」と聞いた。
シロウと私は顔を見合わせた。
シロウは私から目を話さず「彼氏かは知らぬが、俺にとって大事な人だ。彼女を傷つけることは許さない。」と強い口調で言った。
木村君は、シロウの抑圧感に『二度と近づかない。』と約束をして帰っていった。
私はまだ状況が理解できずにいた。
「あれは本刀だったよね?何故人が切られたように見えたの?」
「木刀だが、ここの御神木の樫の木で作られた木刃だ。人は切れないが、悪霊や異形の者は切れる。」
私は理解出来ずにいた。
色々聞きたいことは山積みだけど、何から聞けば良いか分からない。
しかも門限はとうに過ぎていた。
明日出直して話を聞く以外無かった。