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夏祭り

 夏祭りの日がやってきた。

私は母に浴衣を着せて貰った。私の浴衣は、紺地に白い紫陽花が描かれている。

母が縫ってくれたものだ。それを薄い灰色の帯でまとめる。

母のセンスが私は好きだ、派手ではないが粋なのだ。

そして自分で髪をアップにして、何度も鏡をチェックした。

何かを察した母は珍しく「とっても可愛いいわよ。さ!いっといで。」と背中を押してくれた。

私は「いってきます!」と自信を持って天神さんへと向かった。


 シロウは石段の中程で待っていてくれた。私は嬉しくて駆けよった。

はき慣れない下駄であまりに急いだので、つまずいて転けそうになった。

シロウはそんな私を優しく受け止めて

「大丈夫?そんなに急がなくても、俺は何処にも行かないよ。」そう言って微かに笑った。

 そうシロウは、いつも表情を大きく変えない。

だから最初は怒っているのかと思ったくらいだ。

でもよく見ると、彼は表情をいくつも持っていた。

その微かな変化を見つけると私は心が躍った。

まるでそんなシロウを知っているのが自分だけだと思えて、嬉しくなった。


 私達は、はぐれないようにと手をつないだ。

初めて異性と手をつなぐ事に緊張していた。

そんな私の緊張を知ってか知らないでか、シロウは私の手をしっかりと握っていた。

私は手から心臓の早い鼓動が伝わるのではないかと、気が気でなかった。


 ヨーヨー釣り、綿菓子、リンゴ飴と色々楽しむにつれ、時間が経つにつれ、緊張はほぐれ、手を引いてもらって歩くのが心地良くなっていた。

私は、ガラス細工屋でリンゴのガラス細工を見つけた。

リンゴは透明なガラスに淡い色が交差し気泡に包まれていた。

向こうに見える景色が反転し、まるでもう一つの世界を覗いているようだった。

あまりに儚げな存在感に魅入ってしまった。それは、まるで初恋のような儚さだった。


そんな私に気付いたシロウがリンゴを手に取り

「オヤジ、これをくれ。」といった。

「おっ、彼女へのプレゼントかい?良いねぇ可愛い彼女とお祭かい、羨ましいねぇ。」

「ああ、可愛いだろう。」

そう言ってこちらを見た眼差しは、とても優しかった。

私は、シロウからリンゴを受け取りながら、まるで私の初恋を貰ったような気持ちになった。


 楽しい時間はあっという間に過ぎてしまった。

お祭りも佳境に入り、花火が上がった。

皆が花火に見入るなか、私は花火を見るシロウの横顔に魅入っていた。

シロウの横顔は威厳に満ちており、あまりにも美しく、人とは思えず不安になった。

思わずつないだ手に力が入った。気付いたシロウは心配そうに私の顔を覗きこんだ。


この花火が終わったら今年の夏祭りも終了だ。

私はこの花火が永遠に続けば良いのにと願った。

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