逢魔が時
年に一度のお祭り『天神祭り』が近づいてきた。
沢山ではないが夜店や屋台がでる。子供達はそれを楽しみに、少し前からお手伝いをしてお金を貯める。
私も毎年友達と行くのを楽しみにしている。でも今年はシロウを誘いたいと思っていた。
今日は委員会が長引き、いつもより下校が遅くなってしまった。
いつもなら、この時間は天神さに寄らずに帰っている時間だ。
でも折角勇気を振り絞って、シロウをお祭に誘う決心をしたのだ。
どうしても今日話したくて、彼を探して境内を歩き回っていた。
夕日が辺りを真っ赤に染めていった。
あまりに赤く染まっているので、現実世界にいるのかどうか、境界線が曖昧に見え不安になっていった。
ある場所の影が妙に色濃くうつり、影の中で何かが蠢いてるように見えた。
私はその場所引き寄せられるように、ゆっくりと近づいていった。
あと少しで手が届く、その時急に手を引っ張られた。
「陽葵、何してるの?」
驚いて振り向くとシロウが立っていた。
シロウは私の方は見ずに、私が見ていた影の方を見た。
「シロウを探していたの。でも・・・」
そう言って影の方をもう一度見ると、もう何もいなかった。
シロウは、
「陽葵、逢魔が時だ。こんな時間に一人で、境内をウロウロしないほうが良い。」
「逢魔が時?」
「そうだ逢魔が時、黄昏時だ。」
「黄昏時って夕方?」
「そう、夕暮れ時、人の顔がはっきり見えない時間帯をさしている。
黄昏時の語源は、『誰そ彼』だよ。陽葵は信じないかもしれないが、人と人でないものの区別が危うくなる時間だ。気を付けて。」
私は、急に怖くなってシロウの腕にしがみついた。
シロウは笑って
「大丈夫、今は俺がいる。ところで、何故俺を探していたの?」
「もうすぐ天神祭りでしょ。シロウはどうするの?」
彼は少し意地悪い笑みを浮かべ
「陽葵はどうするの?いつものように友達と行くの?それとも?」
私は真っ赤になって言った。
「シロウと行きたいと思って。」
シロウは嬉しそうに笑って私を抱きしめ、優しく髪に口づけを落とした。
「ありがとう、陽葵。一緒に行こう。」
シロウは石段を降りる所まで送ってくれた。
「陽葵、気を付けてお帰り。」
「うん。おやすみシロウ。」
「おやすみ、陽葵。」