唯一無二の存在
2018年9月
まだまだ残暑が厳しい9月のとある日。
私は再び尾道駅に降り立っていた。
小さな旅行鞄を肩に掛け、2ヶ月前と同じ道のりで祖母の家を目指した。
今回は荷物をかなり減らし宅急便を利用した。にも関わらず、祖母の家に着く頃には、やはりシャツの色は濃い色に変わっていた。
玄関の呼び鈴を鳴らすと祖母が、笑顔で出てきてくれた。
「いらっしゃい、晴陽ちゃん。ほうじゃぁ『おかえりなさい』じゃったね。」
「おばあちゃん、ただいま。」はにかんだ笑顔で答えた。
着替えて、天神さんへ急いだ。夏の忘れ物みたいに、蝉が少し鳴いている。
旅路で疲れたはずなのに、何処にこんな力が残っているのかと思うくらい全力で走った。
駆け上がった先には、久しぶりに見る賢太の笑顔があった。
たった数週間なのに、夢でしか逢えなかった恋しい人を目の前にすると胸が熱くなった。
「おかえり、晴陽。」
「ただいま」
もっと近くに感じたくて、もっと現実だと感じたくて、お互いを強く抱きしめた。
賢太の匂いと熱が伝わって、私はずっと心に空いていた穴が埋まっていくのを感じた。私達はきっと唯一無二の存在になれるだろう。さぁ、共に時を重ねよう。