落雷
彼とは梅雨の終わり、雷が地響きを轟かせている中で出逢った。
その日は朝から晴天で、梅雨明け間近だった。
学校を出てしばらくして雨粒が私の頬を濡らした。傘を持っていなかったので家路を急いだが、間に合わなかった。
私は天神さんの社殿軒下で雨宿りをすることにした。
雨は、やむどころか雷まで引き連れてきた。私は、雷が一歩ずつ近づく気配に怯えながら立っていた。
その時閃光が走ったとほぼ同時に、大きな凄い音をたて雷が境内の桜の木に落ちた。
私は恐怖のあまりしゃがみ込んだ。
恐怖に震えて、耳を塞ぎ強く瞼を閉じていた。不思議な事に少し低めな声が耳元で囁いた。
「もう大丈夫だ。」
私が顔を上げると、目の前に黒髪に精悍な顔立ちの青年がいた。
私は余りに綺麗な青年に一瞬見とれてしまった。次の瞬間、雷の音に驚き尻餅をつきそうになった。
彼はそんな私を引き寄せ、背中をトントンとまるで子供をあやすように
「落ち着いて。」と言った。
彼の低い声は耳に優しく響き、私の心は不思議と平静を取り戻していた。
彼の少し、くせのある前髪から覗く瞳は、真っ直ぐ私を捕らえた。
瞳はよく見ると、瑠璃色がかったキレイな色だ。
私はその鋭い瞳に心を奪われてしまった。
彼の名前は『シロウ』と言った。
シロウは神主さんの遠縁に当たるらしく、夏休みに遊びに来たと言った。
私は高校への登下校の際、天神さんの境内をよく通る。その時は必ずお参りをした。
我が家から、細い路地を通り石段に出る。
石段を上る天神さんだ、そこには大きな御神木がある。
御神木は楠で樹齢500年だという。
夏は御神木の作ってくれる大きな日陰で読書をしたりしていた。
また、魔除けの獅子と狛犬が神社を守っている。
口が開いて角が無いのは阿像(獅子)角が有り口を閉じた吽像(狛犬)だ。
子供なら阿像も吽像も恐がりそうなものだが、何故か小さい頃から一度も恐いと思った事はなかった。
それどころか像の近くで遊ぶと良い事が起きた。
痛かったお腹が治ったり、無くした物が見つかったり。
だからか天神さんが大好きで、夏は友達と蝉やバッタを捕り、冬は積もった雪で雪だるまを作ったりと毎日のように天神さんで遊んで過ごした。
成長と共に天神で遊ぶことは減ったが、形を変えて私の日常は天神さんと共にあった。