別離
社殿の近くは結界が強化されており、如何なる悪しき者も本来は近づけない。
近づけない悪しき者達が、境内の日陰、湿った場所で隙をうかがっているのだ。
私の足を引っ張ったのもそうした者だった。
獅狼の影響で以前より霊に敏感になっている私は、その分影響も受けやすくなっていた。
獅狼が私を助けている間に、境内では事件が起っていた。
獅狼の動揺は思った以上に影響を与えていた。
狗太君がいつの間にかの獅狼の背後に立っていた。彼は左腕に怪我を負っていた。
「獅狼!」と叫び、振り返った獅狼を殴った。
「何だ!お前のその中途半端さは!御屋形様を危険な目に合わすなら、僕はお前を排除する。」
「なんのことだ?」
「気付かないのか?結界の強度が弱まっているぞ。」
「まさか!」と呟き獅狼は目を閉じた。
そして、目を見開き「御屋形様は無事か?」
「僕が対処した、もう少し遅ければ御屋形様のお手を煩わせるとこだった。」
「お前の中途半端さが陽葵ちゃんも危険な目合わせ、御屋形様をお守りする事も満足にできない。本来の役割を忘れるな。」
狗太君は外見に反して凄みのある目で獅狼を見た。
「引き時だろう、これ以上は無い。術をかけろ、いいな?」
と哀れみに満ちた目で私を一瞥し去って行った。
獅狼はしばらく目を閉じ何か考えていた。いや何かを自分に言い聞かせてる?
そして悲しそうに、でも優しい目で私を見つめた。
「俺は今までこんなに誰かを愛おしく想った事は無かった。陽葵、愛している。
でも、俺が側にいることで陽葵を危険にさらしてる。」
獅狼は優しく私の髪に唇を落とした。
「別々の道を歩む事になるが、俺はいつも陽葵の側にいる。
目には見えないが俺の一部はその木彫りの中に存在する。お守りとして肌身離さず持っていてくれ。持っていてさえくれれば、俺は陽葵が危険な時に助けにいける。」
そう言って私を見つめた。
「嫌だ、嫌・・・・」突然の別れに私は獅狼から逃れようとするが、動くことはできず。唯々、頬をつたう涙が熱く、それを今にも泣きそうな笑顔で拭ってくれる獅狼の顔を見つめていた。
そして私は少し瑠璃色かかった瞳に引き込まれるように気を失った。