原初の悪意
是非とも読んで貰えたらな、と。
投稿は不定期ですが1500字位のペースで。
人は、自分と違った者を虐げる。
それは、神話の時代が終了し、人が固有の進化を遂げた今でも変わらなかった。
自らと同じ者と郡体を築き、枠の外側に対し徹底的に痛めつける。
例え思想が薄い者が居たとしても、それは周りや親から押し付けられる。時に、子供の悪意というのは留まるを知らない。
「さとからでていけー!」
「でていけー!」
金色の髪、尖った耳、鋭い犬歯、凡そ『イエヴォ』と呼ばれるヒトガタの1種の子供が宣言する。
限度を知らぬ子供達の悪意が、異端を苦しめる。それは良く見る光景だった。
放物線を描いて子供の拳大の石が飛ぶ。それは無垢な憎悪を乗せて、対象にぶつかる。
「………って…!」
舗装されていない路上に幾らでも落ちている石が、道を歩いていた少女の頬に当たる。小さく声を漏らすと、手入れされていない真っ黒な髪を揺らした。
「でていけー!」
「でていけいみごー!」
揃いに揃って罵声を飛ばす。
彼らが『忌み子』を理解しているのかは定かではない。しかし、確実に篭った憎悪は標的の少女を傷つける。
深紅の血が、切れた頬から垂れる。
「るっせぇ!ばーか!」
反撃とばかりに少女は叫ぶ。
手入れされていない、ぼさぼさの、漆黒の髪の間から、異質な血色の眼が覗き、睨む。
その異様な雰囲気に、虐めの主犯たる子達はたじろぐ。
もしも、彼女の事を知らない人が見たのなら、こう称するだろう、『悪魔の子』と。
「う、うるさい!でていけ!」
しかし先程までの威勢は無い。
優勢を崩した彼らを一瞥すると、彼女は郷の外へ続く道を歩いていった。
「スパーク!」
ギリギリ雨風を凌げるレベルのボロ屋。その蝶番の外れかかったドアを少女は蹴破り、育て親の名を呼んだ。
「おー!帰ったか。」
声の主、中年の男が囲炉裏で無精髭を擦りながら鍋を掻き混ぜていた。
「塗っとけ。マシにはなるさ。」
男、スパークと呼ばれた彼は一瞬で少女の頬の傷を見抜いて、脇の棚から薬瓶を取り出し、少女に放った。
「ん。」
少女は慣れた手つきで受け取ると、蓋を開けて中の薬を頬に塗った。
薄緑の薬が入った瓶を軽く閉めると、彼女は棚に戻した。
「髪、伸びてきたな。」
「ん…。確かに。」
スパークにそう言われて、彼女は髪を弄る。
長らく水でも手入れしていない、黒い髪。しかし、どことなく艶やかな雰囲気を纏っていた。
前髪あたりを弄っていた所、ふと彼女は頬に触れて気づいた。
「もう治ってやがる…。」
投石され切れていた頬の傷が、跡形もなく消え去り白い肌を見せていた。勿論、スパークの傷薬の効能の範囲ではない。
「やっぱコイツの所為か?」
そう言って見たのは右手の甲。彼女のそこには、禍々しい、どす黒いアザが居座っていた。これが、イエヴォの子供達の言う『忌み子』の由縁の1つ。その他は類を見ない奇怪な髪と眼の色だが。
「…いーや、ただのアザさ。偶然だよ。」
「……ま、現役霊術士サンが言うなら間違いねーな。」
意地悪な笑みを少女は浮かべ、スパークの差し出したスープの入った木皿を受け取る。そんな様子を見て彼は一言。
「良し、今日の狩りは川の方まで遠出するか。」
「ほんと?」
川、と聞いて彼女の眼が輝く。彼女は、郷の外の川が好きで稀にスパークに連れられ聴くせせらぎの音が心地よいのだ。
「狩りを教えたらな。」
彼は何時もの日課を終えたらと忠告しておく。
そうと決まれば、だ。
黒髪の少女は匙で薄小麦色のスープをかき込んだ。
こんな物を目に通して下さって本当に感謝しか無いです…。
本当に…。