4.
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神父とわたしが口付けを交わしたあの日から、何日かの時が過ぎた。
わたしは相変わらず教会――人の生活にたえられるほどに修繕され、神父は宿からこちらに移り住んでいた――に通い、神父も相変わらず教会を修繕していた。
その日もわたしは教会へ向かっていたのだが、教会の方へ向かう町の人間を目撃し、それと鉢合わせしないように道端で時間を潰していた。ほろほろと舞い落ちる雪が、雪の上に刻まれたわたしの足跡を覆い隠してゆく。
音は雪に食われて、辺りは静寂に包まれている。わたしはひとり、強くなってきた風にさらわれないように外套を身体に引き寄せていた。
「お前が《死神》だな」
突然聞こえた男の声。わたしの視界を支配する、黒。ふるりと頭を振ると、ほんの三歩ほど空けた目の前に、黒い髪の男が立っていた。
いつだったか神父と話をしていた、あの、不吉な男。
一歩、こちらへ歩みを進める男、その黄色い瞳は射抜くようにわたしを見つめていて、艶の無い長い髪は風に嬲られなびいていた。真っ白い世界に浮かび上がる男の姿はとても異質で、不安で、不吉だった。
「奴は、甘い。先送りにすればするほど、自らの首を絞めているのに……」
淡々と言葉を紡ぎながら、更にもう一歩。男の着ている夜闇のように黒い外套が揺れて、その下で、金属と金属が擦れ合うような音がした。
――逃げなければ。はやく、どこかへ。でなければ、『また』、奪われる。
頭の中でなにかが警鐘を鳴らしてわたしを急かすのに、まるで根でも生えてしまったかのように動けない。男が最後の一歩を踏み出して、外套の下から手を伸ばそうとした、その時。
「エレ!」
耳慣れた声が響き、男は舌打ちをするとすぐさま腕を外套の中にしまい込んでわたしから離れた。雪を踏みしめ駆ける足音が近付いてきて、わたしの肩を誰かが掴んで引き寄せた。
「…………」
それは、険しい顔をした神父だった。わたしを庇うようにして、男を見つめていた。息が詰まるような時間が続き、何呼吸かの後、男はくるりと背を向け、外套を翻しながら去っていった。
「忘れるな。お前は、《太陽》なんだ」
最後に残された男の言葉。それは、わたしをひどく不安にさせた。……わたしの肩を掴む神父の手に、力が入った。
* * *
激しい炎に身を焼かれながら、娘は呪いの言葉を吐きました。
「ゆるさない……たとえこの身がここで炎に焼かれ朽ちても、私はけしてお前たち人間をゆるしはしない……!
この町に雪の呪いを!
幾年もかけて少しずつ凍り付き、死に絶えてゆく呪いを……!」