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VOICE  作者: らんぷー
5/12

アヤセ Side

PM9時


パソコンを立ち上げ VOICEのアプリを開く

配信ボタンをクリックすると

0だった閲覧数がグングン増えていく


「11月4日水曜日 こんばんは!アヤセです。1860人の方、いらっしゃい!」


早速アイテムが飛ぶ


「アエリ!アイテムありがとう!こんばんは!今日もアエリの側に僕はいます。ありがとうね!」


「ゆな、アイテムありがとう!今日嫌なことがあったけど、アヤ君の声で復活したよ? ありがとう!ゆな、僕はいつもゆなの側にいるよ!こちらこそ、一緒にいてくれて、ありがとう」


アイテムを投げる子達は、自分だけに向けた僕の甘いメッセージを待っている。


俺は彼女達が求めている言葉を一瞬で想像し、ささやく。


俺が配信で使っている50万円のバイノーラルマイクは超高音質。

まるで耳元でささやいているかのように、俺の声がリスナーの脳に染み渡る。


リスナーいわく

アヤセの声は、離れなれなくなる声 らしい…



二十歳になったばかりの頃、初めて配信をした。


きっかけは、VOICEをやっていた友達から、どっちが稼ぐか勝負したいと言われたことだった。


なんでも、そいつの彼女が、俺の声がすごく好きで、

要するに嫉妬から勝負したいと思ったようだった。


一ヶ月後、そいつの登録者数200人 俺は3000人


収益は、5千円対15万円

圧勝だった。


そいつはすぐやめてしまったんだけど、俺は結構な収入になったから、そのまま続けて4年目になる。


今じゃ登録者数3万人 配信日は必ずランキングの上位に登場する、売れっ子配信者になった。


「今日ね〜、久しぶりに自炊したんだよね、何作ったと思う?」



えー!?カレー?


パスタとかかなー?


焼き肉?


寒くなってきたからお鍋!?


カップラーメンはやめてよ?www


アヤ君のご飯食べたいー!




リスナーのコメントが、滝のように流れる


「みんなハズレー笑 今日ね、職場でじゃがいもをもらってね、じゃがいもといえばー?!」



カレーじゃん?


肉じゃがだ!


コロッケとか?


じゃがいもはシチューかなー?


まさか、じゃがいもふかしただけとか??



「ブッブー!!笑 すごいよ、聞いてびっくり、ポテトサラダを作りましたー!!」



えー?!すご〜い!


すごっ!!


上級者!!


見たいー!


食べたーい!!


ポテサラ美味しいよね!!



「すごい大量に出来ちゃって困ってる笑

 みんなにもおすそ分けしたいよ。 

 画像貼るから見て!」


PCに、今日作ったポテトサラダの写真を貼り付ける


「今日から3食ポテサラです笑みんなも一緒にポテサラ生活する?もちろんするよね?笑」


配信は、リスナーのコメントとの掛け合いだ。

まるで、彼女と長電話しているみたいに、リスナーと会話する。





「あっという間に一時間が過ぎちゃったね。今日も楽しかった!みんな、ありがとう。僕と今日もつながってくれてありがとうね。。また、日曜日に会いましょう。大好きです。おやすみなさい。」


1時間の配信が終わると、その日に課金アイテムを投げてくれたリスナーにお礼のメッセージを送る。

これも大事な仕事だ。

一回の配信で大体30人が課金してくれて、約20000円の収入になる。


それ以外にも、閲覧数に応じて広告収入が入る。

俺の配信一回につき、録画閲覧も含めて3万人以上の人が見る。

リスナーは10代、20代の女性が95%をしめている。


だから、


化粧品や、ファッションサイト、お菓子やアプリなんかの企業が広告をだしてくれる。

時々CM用のボイスメッセージなんかも依頼される。


そんなこんなで、昼職の倍以上の収入を得ているわけで、、



お礼のメッセージを送ってから、アヤセのSNSに投稿をして、パソコンの電源を落とした。




PM11時


ふと窓に目をやると、夜の海が見えた。


真っ暗な海に


小さな光が見える。


漁船だろうか。


ここから俺が見ているなんて 思いもしないだろう。


こんな田舎の、静かな海辺のアパートにいる僕が、今さっきまで、何万人という人とつながっていた…




プルプル


ラインが鳴った。



相原くん、夜遅くにごめんなさい。急なのですが、山内さんの担当者会議、明日の9時からになりました。朝イチなので、少し早めに来て利用者さんの作業の準備をしていただきたいです。すみませんが、七時半に出勤してもらえませんか?



四宮さんだ。



「マジかよ…」


思わずつぶやく。


別に俺が担当者会議に出席しても何の意味もなくない?


四宮さんが俺に何を求めているのかはわからないけど、


俺にそれを求められても困ることだけはわかる。


「俺、ただのバイトだし。」

小さな声でつぶやいた。



わかりました



それだけ送ってラインを閉じた。



昼の仕事は 何でもよかった。

特にやりたいこともなかった。

配信より稼げる仕事もなかった。





俺は 毎日、精神疾患を抱える人達と働いている。



彼らのことは特別だと思うこともないし、同情みたいなものも特にない。


俺と同じ、一人の人間  それだけだ





山内 緑さん



俺は部屋の電気を消して ベッドに寝転んだ。



1年前に初めて会った時、すごく小さな声で挨拶をしてくれた。

20才の小柄な女性で、普段はあまりしゃべらなかった。


解離性障害とうつ病をわずらっていて、大人になってから、軽度の知的障害があることを知った、とのことで、

学生時代から、壮絶ないじめを受けてきていた。


双子の妹がいて、妹も同じ病気で、入退院を繰り返しているみたいだった。


俺の担当している古着販売部門は、業者から買い取ったブランドの服を季節や性別やサイズに分類した後、状態チェックや採寸をしてネットに出品する。


山内さんは写真撮りが上手でパソコンも使えたから、出品を任せていた。


真面目で素直。トラブルもなかった。


でも、四宮さんが言っていたように、生理前になると、メンタルが不安定になり、集中できなかったり、表情が悪かったり。


俺には何も言わなかったけど、女性職員には話していたみたいだった。



「生理前後にメンタルが不調になることは、珍しいことではないから、対応は勉強してね」



四宮さんの声が響いた



「めんどくさっ」


思いきり寝返りをうって、窓を見ると、さっきの漁船の光がなくなっていた。


明日は早い


俺は目を閉じた。












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