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VOICE  作者: らんぷー
4/12

AM8時半


作業所の作業が始まる。


風 は、インターネット販売の仕事を、グループ会社から請け負っている。売買しているのは、古本、古着、中古カメラだ。


1階から3階までの建物の中に20人の利用者がおり、担当に分かれて、商品のチェック、掃除、出品、保管管理、出荷を行う。


古着は、隣の古着屋で、併売もしている。


4名の職員が支援員として働いており、利用者の作業の手助け、メンタルや生活の相談なんかを受ける。

朝子は施設長として、職員の指導や、利用者さんの日常のサポート、事業の運営を行なっている。


「相原君、ちょっといい?」

「はい」


作業が落ち着いた頃を見計らって、朝子は智也を事務所に呼んだ。


「山内 緑さんの担当者会議を開きたいって相談事業所から依頼がきたの。明後日、14時から、よろしくね。」


「僕も出るんですか?」


出たくないという意思が態度に出ている。

朝子は淡々と話し続ける。


「相原君もここに来て半年になるし、山内さんは相原君が担当してる古着部門にいるから、一番見ているし。」


「はぁ…」


「山内さんがずっと休んでいる経緯を私が話すから、相原君も

担当者として、支援していて感じたこととか、最近の様子を話してほしいの。」


「前の日まで普通に来ていたし、特に変わった様子はありませんでした。としか言えませんが…」


朝子は少し語気を強め


「私は 特に変わった様子がなかった とは思わないけど」

智也を真っ直ぐ見つめた。


「…………」


「生理前の体調不良は、ここ3ヶ月、毎月あったわ。頭痛、だるさ……休まなかったけど、そこからメンタルの不調を訴えていたことも。」


「…………」


「男性の相原君に直接訴えることはなかったけど、毎回ミーティングには上がっていたはずよ?」


「……………」


「それから、おばあさんが入院したわ…山内さん、おばあちゃん子だったし。」


朝子は智也に視線を向け続ける。


「相原君が毎日見ていたのよ。あなたが、感じ取って、伝えてあげなければ、何もなかったことになってしまうのよ。」


「そう言われても…山内さんのこと、うまく説明する自信はありません。」








相原君は、なぜ うちに来たんだろう。


1年前、面接で初めて出会ってから、ずっとそう思っていた。


高校を卒業してからずっとフリーターをしていて、

家が近いというだけで、他の志望動機は何もなかった。


じゃぁ、なぜ採用したのかと言うと


精神疾患の人を助けてあげたい、とか、サポートしたいとか、そう言って来る人ほど続かない現実があった。

想像と違った、そうやって辞めていく人は何人もいた。


メンタルをやられて辞めていく人もいた。


相原君は


志はなかったけど、その分、何があっても、動じなかった。


リストカットをする人の腕を見ても


被害妄想で、あることないこと、八つ当たりされても


淡々とした態度で接する姿は


彼にしかない姿だった。


でも


もっと、わかろうとしてほしい。


利用者さんの気持ちに寄り添って

決してコミュニケーションが上手とは言えない彼らの胸のうちを


もっと知ろうとしてほしい……


私の エゴ なのだろうか……



しばらくの沈黙の後


「わかった。初めての担当者会議だし、相原君は出席だけして。私が説明します。」


「…………はい。」





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