続
AM8時半
作業所の作業が始まる。
風 は、インターネット販売の仕事を、グループ会社から請け負っている。売買しているのは、古本、古着、中古カメラだ。
1階から3階までの建物の中に20人の利用者がおり、担当に分かれて、商品のチェック、掃除、出品、保管管理、出荷を行う。
古着は、隣の古着屋で、併売もしている。
4名の職員が支援員として働いており、利用者の作業の手助け、メンタルや生活の相談なんかを受ける。
朝子は施設長として、職員の指導や、利用者さんの日常のサポート、事業の運営を行なっている。
「相原君、ちょっといい?」
「はい」
作業が落ち着いた頃を見計らって、朝子は智也を事務所に呼んだ。
「山内 緑さんの担当者会議を開きたいって相談事業所から依頼がきたの。明後日、14時から、よろしくね。」
「僕も出るんですか?」
出たくないという意思が態度に出ている。
朝子は淡々と話し続ける。
「相原君もここに来て半年になるし、山内さんは相原君が担当してる古着部門にいるから、一番見ているし。」
「はぁ…」
「山内さんがずっと休んでいる経緯を私が話すから、相原君も
担当者として、支援していて感じたこととか、最近の様子を話してほしいの。」
「前の日まで普通に来ていたし、特に変わった様子はありませんでした。としか言えませんが…」
朝子は少し語気を強め
「私は 特に変わった様子がなかった とは思わないけど」
智也を真っ直ぐ見つめた。
「…………」
「生理前の体調不良は、ここ3ヶ月、毎月あったわ。頭痛、だるさ……休まなかったけど、そこからメンタルの不調を訴えていたことも。」
「…………」
「男性の相原君に直接訴えることはなかったけど、毎回ミーティングには上がっていたはずよ?」
「……………」
「それから、おばあさんが入院したわ…山内さん、おばあちゃん子だったし。」
朝子は智也に視線を向け続ける。
「相原君が毎日見ていたのよ。あなたが、感じ取って、伝えてあげなければ、何もなかったことになってしまうのよ。」
「そう言われても…山内さんのこと、うまく説明する自信はありません。」
相原君は、なぜ うちに来たんだろう。
1年前、面接で初めて出会ってから、ずっとそう思っていた。
高校を卒業してからずっとフリーターをしていて、
家が近いというだけで、他の志望動機は何もなかった。
じゃぁ、なぜ採用したのかと言うと
精神疾患の人を助けてあげたい、とか、サポートしたいとか、そう言って来る人ほど続かない現実があった。
想像と違った、そうやって辞めていく人は何人もいた。
メンタルをやられて辞めていく人もいた。
相原君は
志はなかったけど、その分、何があっても、動じなかった。
リストカットをする人の腕を見ても
被害妄想で、あることないこと、八つ当たりされても
淡々とした態度で接する姿は
彼にしかない姿だった。
でも
もっと、わかろうとしてほしい。
利用者さんの気持ちに寄り添って
決してコミュニケーションが上手とは言えない彼らの胸のうちを
もっと知ろうとしてほしい……
私の エゴ なのだろうか……
しばらくの沈黙の後
「わかった。初めての担当者会議だし、相原君は出席だけして。私が説明します。」
「…………はい。」




