朝子 Side
PM 6時半
アパートに着くと、自転車を駐輪場に停めて
早足で階段を駆け上がる。
202号室が私の家だ。
「寒ーい!……」
11月も半ばだ。
さすがに薄手のカーディガンはチョイスミスだったな…
昨日作ったカレーを温めながら、郵便物を確認する。
1つは宅急便の不在通知
もう1つは、大学時代の友達からだった。
封筒は、それが何なのか、開けなくてもわかるくらいで
カレーをかき混ぜながらゆっくりと開く
「マミもついに結婚かぁ〜……」
26歳
特に驚く年齢でもなかった。
既に結婚式も3回目。
この、見るからに幸せそうな招待状も、
「3回目かぁー……」
みんな、着々と、確実に、女の幸せを掴んでいる。
式は5月3日 土曜日
私は手帳を確認する。
「あっ………」
シンポジウム
赤字で大きく書かれている。
「だめだ…行けないや……」
5月のシンポジウムは、県内の福祉関係の仕事に従事している人が一斉に介し、事例報告や、問題提起や、ワークショップをして交流する。1年に一回開催される大きなイベントだ。
毎年、作業所を閉めて、職員全員で参加する。
大学を出てから、精神科ソーシャルワーカーとして、就労支援施設の職員として 働いて、5年目になる。
私は、まだまだ 知識も経験も、半人前。
「美味しい………」
2日目のカレーは、一人暮らしあるあるだなー
大学時代に付き合っていた恋人とは、社会人になってすぐ、別れた。
相手が東京に就職して、遠距離になったこと、お互い余裕がなかったことで、喧嘩が絶えなかった。
その彼も
もうすぐ結婚するらしい。
私は………
ふと
頭によぎる
あの日 病院で見た光景
ベッドに横たわって、窓辺を見ていた さん
私に気付くと力なく笑って
「赤ちゃん、産んだよ……」
ハッ として
思いきり水を飲む
ドクン! ドクン!
鼓動が高鳴る
「スゥー……ハァー……スゥーー…ハァー……」
ひたすら深呼吸を繰り返す
食べかけのカレーを投げ出して
ベッドに倒れ込む
私は
まだ あの日を生きている
時計は止まったまま
2年前の まま