8 早弁
二時間目が終わると、生徒達は弁当を食べ始めた。早弁である。女子高も早弁するんだな…と、隆一は自分の高校時代を懐かしく思い出した。隣りの席のさっちゃんも弁当を広げた。
「杉村さん、お弁当は?」
まるで弁当を食べるのが当たり前のような口ぶり。綾香と毎日、この時間に弁当を食べているのだろう。綾香のやつ、弁当のことまでは教えてくれなかったぞ。隆一は、べーっと舌を出している綾香の顔が浮かんだ。
「持ってきて…ない…」
隆一は小さな声で言った。
「おなかすかない?」
小柄な体のわりには、ごはんがぎっしり詰まった大きな弁当箱だな、と思いながら、隆一は、
「へい…き…」
と、できるだけしおらしい声を出した。
「がまんするのよくないよ。あたしのちょこっとあげる。はい」
さっちゃんがごはんをすくった箸を隆一の口元に差し出した。……。これは…そのう…口をあーんしろ、ということか? さっちゃんはどうしたの、という顔で、箸をかざしたまま、じっと隆一を見ている。隆一が口を開けるまで、ずっとそうしているのではないかと思われた。
隆一は目をつぶって、口を開けた。すっと、ふりかけのついたごはんが口に入ってきた。ごくん。たまごふりかけか。さっちゃんはにっこり笑い、もうひとすくいして、また箸を隆一の口に持ってきた。反動的に隆一は口を開け、もう一口、ごはんを食べた。新婚さんみたいだな…。間接キス…。そう思ったら、顔がほてった。
「あれ、からかった?」
さっちゃんが顔をのぞきこんだので、隆一は下を向いて首を振った。
「ありがとう…もういいよ」
隆一が小さな声で言うと、さっちゃんはうなずいて、自分で弁当を食べ始めた。
ああ、恥ずかしい…。隆一はどきどきする鼓動を無理やり鎮めようとあがいた。
「お昼はどうしようか? パン? 学食?」
さっちゃんは卵焼きをほおばりながら、もう昼のことを話題にする。隆一と一緒に昼を食べてくれるようだ。
そうか、この学校は学食があったんだっけ。
布引学院には学食はなく、歩いて3分という近さにあるこの白鳥女子高の学食を利用することが許可されていた。安くて、味がおいしいと評判で、また、これが一番の理由なのだが、かわいい彼女を探すために、大勢の布引生が、昼につめかけた。
隆一自身は、一度も利用したことがなかった。彼女がほしいとも思わなかったし、わざわざ女子高に出向いていくなんて魂胆丸見えじゃないか。隆一は、売店のパンで満足していた。
 




