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おれは女子高生  作者: 奥田実紀
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7 女子トイレ

布引(ぬのびき)学院では、隆一が一年の時に制服反対運動が起こり、二年の時、制服は廃止された。私服での通学となったのだ。隆一はどっちでもいい派だった。制服なんか、あったってなくたって、自分が自分でいられるのなら、大きな問題ではない。


それが今、自分は、制服のおかげで‘男’ということを見破られないですんでいる。制服はシェルターのように、自分を守ってくれている。


制服の中のおれは、ちゃんとおれか? サイズが合わなくてきつい。それは、おれがおれだからだろう。何も心配することはないさ。

なのにこの不安はなんだ。この制服がおれを消してしまうような気がしてならない。むりやり女の格好をさせられ、そしてこのまま、おれはうやむやの中で、どんどん女になっていくような気がしてならなかった。


おれは男なんだよな、男だったんだよな。男だった? 今は? この感じは何なんだ。自分が女になることが不自然ではないような気がしている。この甘ったるい空気のせいか…。


一時間目が終わる鐘が鳴り終わるなり、隆一は廊下に飛び出した。思いきり空気をすう。外の空気はまだましだった。なんだか、どっと疲れた。冷や汗も出ていた。


「疲れた? 50分って、長いよね」

 小柄な女の子が声をかけてきた。

隆一はこの学校にきて初めて、一人の女生徒の顔をまじまじと見た。隣りの席に座っていた、彼女は――そう、綾香の親友のさっちゃんだ。

よく見ると、目がくりっとして、おちょぼ口。写真で見るよりもずっと、中学生のような、幼い顔立ちをしていた。あのきつい綾香とはまるで正反対のタイプじゃないか…。隆一は苦笑いした。


隆一がしゃべらないことを気にする様子もなく、さっちゃんは、

「トイレは廊下の西側のつきあたりよ」

 と、さりげなく教えてくれた。

「一緒に行こ?」

さっちゃんは隆一の腕に手をまわして、どんどんトイレに向かって歩いていく。


え?え? 隆一はうながされるがまま、トイレについた。まあ、いいか。せっかくだからしょんべん、していくか。隆一はトイレの中に入っていく。


「あーっ!」とさっちゃんが声を出すのと、先に用をたしていた男の先生が目をまん丸にして隆一を見つめたのが、ほぼ同時だった。

先生は、

「ここ、男子トイレ…」

とつぶやくのがやっとだった。そういわれても、隆一はまだきょとんとしていた。


「杉村さん!」

 さっちゃんがトイレの外で叫ぶ声が聞こえた。

「間違えてるよ!」

 はっとした。


そうだった、おれは今、女なんだった。女子トイレに入らなくちゃいけなかったんだ…。隆一はくるっと向きを変え、そそくさと男子トイレを出た。もうしょんべんはどうでもいい。早くここから抜け出そう。隆一は教室に向かって、大またでずんずんと歩いていった。


「杉村さん!」

 さっちゃんが追いかけてくる。

「誰か先生いた?」

 さっちゃんの問いかけに、隆一は大きくうなずいた。

「もしかして…見ちゃった?」

 隆一ははずみでまたうなずいた。さっちゃんはそれからトイレのことは何も聞かず、何も言わなかった。


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