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おれは女子高生  作者: 奥田実紀
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5 女子高生になる

綾香の要求は、女装をして自分の代わりに自分の女子高に通え、というものだった。

隆一の年齢は、高校生とほとんど変わらない。眼鏡をコンタクトに代え、髪型を変え、むだ毛などをきれいに処理すれば、女子高生に変装できる。のどぼとけだって、それほど目立ってないのだから大丈夫。

隆一がイケメンだとは、綾香は絶対に認めなかったが、そんじょそこらの女子高生よりも見栄えがよくなるであろうことはわかった。この(つぐな)いを思いついた時、綾香は自分の賢さを絶賛した。


先生への説明の仕方まで、ぬかりなく考えた。隆一は、同い年のいとこ、だということにする。登校拒否で家に閉じこもっていたが、綾香の事故を聞いて同情してくれ、退院するまで綾香の代わりに学校にいってくれると申し出てくれた、と。


綾香の母と隆一の両親が揃って学校に乗り込んでいってしまえば、学校側は受け入れざるをなくなるだろう。先方の高校とはもう話がついているとかなんとか言って。

せっかく学校という所へ行く気になったいとこの気持ちをくんでほしい、これがきっかけで登校拒否がなくなるかもしれないと、必死で説得して。なんだかんだいって、たったの三週間なのだから、なんとでもなる。


隆一は言われた通りにするしかなかった。

翌日にはコンタクトをし、美容院で髪型を変え、エステですね毛を剃られ、パックをされ(料金はすべて自腹である)、とうとう白鳥女子高の制服を着せられた――見事に、かわいらしい女子高生に変身した! 


隆一の声はそれほど太くはなく、女性らしくふるまうことに気をつけていれば、隆一が男だということを、両親さえ信じることができなかったのである。女性は化粧で変わるというが、男性もまたしかり、しかも隆一は化粧はしていないのだ!


綾香は学校の勉強など、本当はどうでもよかった。100%、いじわるで隆一を女子高生にしたてあげたのだ。しかし、思った通り、かわいい女子高生になった隆一を目の当たりにすると、自分がしむけたこととはいえ、ねたみがむらむらとわいてくる。


学校で失敗すればいい…いつかはばれて…恥をかくにきまってる。みんなに笑われ、白い目で見られている隆一の姿を想像して、綾香は自分を満足させた。


「あんた、彼女はいるの?」

 綾香はつっけんどんに訊いた。


「いない」

 隆一もせめてもの反抗で、つっけんどんに答える。


「ふうん…。まあ、定職にもつけないような男を彼氏にするひとなんか、いないよね」

 隆一はむっとしたが、綾香は意に介せず続けた。


「さてと。いとこさん、あんたの名前は、杉村隆子(りゅうこ)よ、お忘れなく」

 綾香は隆一にむかって、冷ややかな含み笑いを浮かべた。


毎日、病院に来て、その日の学校の出来事を全部話すこと。学校では余計な話はしないでおとなしくしていること(なにしろ引きこもりという設定なのだから)。すべてにおいて、深入りしないこと。Hな気持ちから女生徒と問題を起こさないこと…。


綾香の友人関係、部活関係のことも、知っておかなければならない。写真を見せながら、綾香はわざと早口で情報を伝える。


「これが親友のさっちゃん。美術部。小柄でやせっぽち…運動は苦手。よく覚えてよ。席も隣りだから、あんたはさっちゃんの隣りに座ることになるんだからね。

で、この子がやっちん。二番目に仲がいい子よ。クラスは違うけど、よく遊びにくるから覚えててね。この髪の長い子がむーちゃん…」


さっちゃんだのやっちんだの、似たような名前で、わけがわからない。いったいおれは何をやっているんだ。隆一はそう思いながらも、翌日には学校に行かなければならないという焦りで、名前を必死で覚えた。


覚えろだの、これはするなだの、あれこれ、あれこれ、やつぎばやに言われ、隆一は頭が爆発しそうだ。結局、一睡もできぬまま、翌朝、白鳥女子高の門をくぐったのである。


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