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おれは女子高生  作者: 奥田実紀
42/42

42 退院

 家に戻った隆一は、女子高生変身グッズをすべてごみ箱に捨てた。女子高生活、ジ・エンド!


「お金に困ったらいつでも働いてくれていいわよ」

 ママからもそう言われ、「今度はお客として来ますよ」と隆一は答えた。また行きたい、と心から思う。早くそうできるように、働かなくては。


人間として自立する。それがけじめだ。まずは、実家に帰って両親にお礼を言う。畑仕事も手伝おう。綾香の言うように、農家の仕事もいいって思えるまで。


農家を継ぐのはまだ早いと、やっぱり感じる。自分は仕事を途中で放り投げてしまったのだ。だから、やり切った達成感を味わうまで、一つの仕事をしっかりやってみたい。

あの編集長のところに行ってみようかと、隆一は考えている。自分の将来と真剣に向き合い始めていた。


 気持ちの整理がついた、数日後。隆一はもとの姿――つまり、男として、綾香に会いに行った。男に戻った隆一の姿を見た綾香は、顔をくしゃくしゃにゆがめた。


「もう来てくれないかと…」

 言葉がそこでつまり、泣き出した。


「ごめん…ごめんね…」

 綾香はずっと謝り続ける。隆一は綾香の肩を抱きしめた。


「女子高生は、もう卒業させてくれよな」

 隆一はやさしく言った。綾香は何度も、何度もうなずいた。


「あんなこと、言うつもりなかったの。ただ、理恵ちゃんと隆一が仲よくしているのに嫉妬しちゃったの…気づいたら、あんなこと口走ってた…」

 泣きじゃくる綾香を、隆一はさらに強く抱きしめた。


「もう、いいって」

「隆一が出てったあと、理恵ちゃんに事情を説明した…」


――理恵ちゃんは自分の部屋で、綾香の話を繰り返し考えた。もし、自分がいつか、一人の男性を好きになったら、あんなふうに嫉妬するのだろうか、人の気持ちも考えずに。醜い。すごく醜いと思う。

だって、私はどうなるの? 事情をまったく知らない私がいるのだから、なんとか我慢するのが筋じゃない…。まったく、子どもなんだから。いい迷惑よ。あの人が男だって知らされて、私にいいことってある?信頼して話したのに、裏切られた感じ。


理恵ちゃんは怒りがおさまらずに、寝てしまった。翌朝になったら、あんなに怒っていた気持ちがおさまっていた。気持ちが乱れたら、まずは寝ろ、と父親が言っていたが、その効果を今日ほど実感したことはない。寝ている間にご先祖さんがやってきて交通整理をしてくれるから、と話す父親の理屈は通っていないようで、通っているのかもしれない。


綾香の理屈も、彼女の中では通っていて、でもいけなかったと反省しているのだ。それを許さないと言ったら、自分はひどい人間になりさがる。

彼は、思い返してみればいい人だ。だからこっちも心を許してしまって話しちゃったんだから。私の秘密を黙っていてくれたのだし、私も黙っているのが道理だ。話したところでなにになる? あのはちゃめちゃな物語を、話したところで誰も信じないだろう。

せめてきれいに終わらせてあげよう。

もちろん、男に戻った顔は、おがませてもらわないとね――


というわけで、理恵ちゃんは翌日、綾香を訪ね、事を丸く収めてくれたのであった。

「理恵ちゃんがいい人で、よかった…。あたし、死のうかと思ったんだよ」


 綾香にとっても、いい薬になったようだ。綾香は目をつぶり、隆一の胸に寄り添った。

理恵ちゃんなら大丈夫と、隆一は信じていたが、確かに迷惑をかけてしまった。今度会って謝らなくては。隆一が一番心残りだったのは、さっちゃんや、やっちんや、写真部のみんなに、ありがとうとさよならを言えなかったことだ。

もちろん、手紙を書くことはできる。だが、もう二度と、隆一が女子の姿で彼女たちと会うことはない。


別れは突然やってきた。人生って、そういうものよ。別れと出会いを繰り返して生きていくものなの――。隆一は『鍵の穴』のママの言葉をかみしめる。

 明日、綾香は退院する。


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