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おれは女子高生  作者: 奥田実紀
4/42

4 償い

「あ、綾香(あやか)、気持ちはわかるけどね…」


 母親がなだめようとしたが、綾香は興奮さめやらない。何よ。この人、口だけで謝ろうとして。私だけが怪我してるってどういうことよ? こいつのほうが怪我すればよかったんだ。お母さんは許しても、私は許さないんだから、気が収まらないんだから。


 ああ、腹が立つ! 綾香は心の奥深くに、嫉妬(しっと)の炎が生まれたことに、気づいていなかった。隆一(りゅういち)に対して、いや、異性に対して初めて持ったジェラシーだった。

隆一は身長167cm、バスケットをやっていたものの筋肉質ではなくやせ型。肩上までのびたストレートの髪、肌の色は女性のように白く、二重まぶたのくっきりした目、スッと通った鼻、やわらかく湾曲したまゆ毛など、妙に、女性的な顔立ちをしていた。


眼鏡をかけているので目立たないが、眼鏡を取り、整えればかなりの美少年であることは、わかる人にはわかる。高校時代は、口には出さねど、隆一に心を寄せる“男子”が、かなりいたのだった。


それに比べ、綾香は背が低く、浅黒い肌、一重まぶたで鼻ぺちゃ。ずっとコンプレックスを持ってきた。女である自分にない美しさを、この男が、自分を骨折させた張本人が持っている。

女より男のほうがきれいだなんて、あり? 綾香は言葉にできないいら立ちを抑えることがどうしてもできなかった。この男に何としても嫌がらせをしてやらなくちゃ、気が済まない。綾香は完全に自分を失っていた。


「あたしとこの人の問題なの。お母さんは黙ってて」

綾香は隆一をにらみつけながら続けた。


「あんた、自分が本当に悪いと思っていないでしょう。そんなの、あたしにはすぐにわかるの。でも、骨折させたのは事実よ。あたしは三週間も、学校に行くことができない。写真部がいちばん忙しいこの時期にね! 

あんたには、それなりの償いをしてもらうわ。それをやってくれるなら、すべて許す。どう?」


すでにお金の面での話はついているわけだから、綾香が求めている償いというのは、きっと別のことだろう。この手ごわそうな、きつい女が、何を償いとして言ってくるのか。隆一の背中を悪寒(おかん)が走った。これは大変なことになる…。


早く丸く収めてしまいたい両親は、

「お嬢さんの気がすむなら、何でもさせていただきますよ」

 と、隆一が答える前に、即座に応答した。


「お、おい! おれはまだ決めてないぜ」

「何言ってるの! あんたに断る理由なんかないんだし、仕事だってしてないんだから。お嬢さんが言うようにしなさい! わかった?」


 両親はすごい剣幕で隆一を説き伏せた。その形相には、これまた今まで見たことのない必死の願いが込められていた。隆一は観念した。ハアーッ。諦め、そして降参のため息。


「できることしか、できないぜ」

 隆一は綾香に向ってつぶやいた。


「もちろん、できないことなんか、言わないわよ」

 綾香はいじわるく笑った。そんなばかじゃないのよ、あたしは。


「あたしの代わりに学校に行って、授業のノートを取ったり、部活をやってくれればいいの」

 なあんだ、そんなことか。隆一たちが胸をなでおろしたと同時に、綾香の母親が声をはりあげた。

「何言ってるの! 綾香の学校は女子高じゃないの!」


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