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おれは女子高生  作者: 奥田実紀
38/42

38 二人がつきあうこと

「だって…お前は…おれのこと、憎んでるだろ?」

骨折させた自分を、綾香はわざと女装させて、困らせた。今度は自分の所有物として縛って、奴隷のように扱いたいということか…? いや、でも、そんなふうには思えない。


「最初は…そうだったけど…。今は、悪かったと思ってる…ほんとよ」

 綾香は切実な目で隆一を見つめた。綾香がなんと隆一に謝った! 

その表情から、嘘ではないことが隆一にもよくわかった。隆一だって、最初は綾香を毛嫌いしていたのが、今は違っている。かわいいとさえ、思うこともあった。


「冗談やいじわるで言ったんじゃないことはわかった…。でも…お前は…おれの後輩の坂口が好きだって…」

 隆一がいちばん気になっていたのは、坂口のことだった。綾香はたじろいだ。


確かに自分は坂口に憧れていた、隆一に会う前は。心変わりしたといわれれば、弁解のしようもない。でも、ぽいっと捨てるように、簡単にそうなったわけではない。どうしたらわかってもらえるの…綾香は自分の気持ちを正直に打ち明けた。ひとこと、ひとこと、考えながら。


「それも…ほんとよ。でも、話したことないし、彼のこと、何も知らないの…。アイドルみたいに、彼を理想化して…遠くからきゃあきゃあ言って、見てるだけでよかった…。

恋に恋してたのかな…あたし。でも、隆一への気持ちはそれとは違う…うまくいえないけど…」


 恥ずかしそうにうつむく綾香を見ながら、隆一は数年前に結婚した、いとこの(かず)姉さんのことを思い出していた。ファンクラブにも入り、コンサートにも欠かさず行き、いわゆるおっかけをしていた熱狂的なアイドルがいたのに、お見合いをした相手とほんの数ヶ月で結婚してしまった。

この間、生まれた赤ちゃんを連れて隆一の家に遊びにきたとき、あのアイドルはどうしたの、と隆一が聞くと、「もちろん、大ファンよ」と、はつらつとして言った。


つまりは、さっちゃんたちが言うように、理想と現実は違うということなのだ。隆一にはいまだ理解できないことではあったが。綾香の場合も、それと同じで、現実に目覚めたということなのだろう。


隆一にとっても、うれしくないわけはない。男からラブレターをもらうのとは段違いだ。綾香にはひどい仕打ちをされてきたが、しっかりしているし、かわいいところもある。


綾香との自転車事故が、偶然ではなく必然、シナリオだとしたら。綾香とつきあってみる機会を与えられたのかもしれない。見てくれだけでなく、綾香とつきあうことで、内面からも自分を変えることができるかもしれない。


でも。今までつきあった女の子たちみたいに、熱くなれなかったら? 女の子と上手につきあえなかったのだ、自分は。綾香を傷つけてしまうことになるとしたら、つらい。


「やっぱり…いや…だよね…」

 隆一がずっと黙っているので、綾香はきまづさを何とかしようと焦った。女装なんて屈辱的なことをさせて、さんざんいじめてきたのだ。嫌われて当たり前、好きになってもらえるはずはないのに。


「いや、違うんだ…。そうじゃなくて…。何ていったらいいか…正直に言うと、おれ、今まで女の子とつきあっても全部だめになって。その…べたべたしたつきあいができないっていうか、女の子に心底興味がわかないっていうか…。好きなんだけど、おれが淡泊すぎるって、相手が離れていってしまうんだ…」

 隆一はしどろもどろに言った。


「女の子に興味がないのに、パンチラは撮るの?」

 綾香はそう言って、口をつぐんだ。またいじわるを言ってしまった。悪い癖。綾香は急いで、

「ごめん…」

 と素直に謝った。


「いいよ…本当のことだし。あれは衝動的にそうなっちまって。いちお、男だし。言い訳だけどさ。

でも、綾香のことは嫌いじゃないし、かわいいと思ってる。女の子のこと、なにもわかっちゃいないおれでもいいなら、友達からっていうのはだめか? っていうか、そこからしか始まらないっていうか…」

 隆一は照れながら言った。それが本当の気持ちだった。


わからないところから始まる恋があってもいい。始めてみなければ先のことはわからないのだから。

「う、うん…いいよ、それで。あたしも…つきあうの初めてだし…」

 綾香は隆一が自分を受け入れてくれたことがうれしかった。

友だちから。そう、自分たちはまずそこから始まるのだろう、加害者と被害者ではなく。


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