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おれは女子高生  作者: 奥田実紀
36/42

36 告白

 綾香から、電話がかかってこない。早く病院に来いと、催促の電話が鳴ってもよさそうなのに。もう綾香の耳には、パンチラ写真のことがはいっているはずだ。あの怒りんぼの綾香が何も言ってこないのは、かえって不気味だった。心底怒っているということかもしれない。そう思うと、近づく勇気はなく、隆一は、次の日も、その次の日も、病院に行かなかった。


高総体の写真現像と焼付けで、早く帰る部員はおらず、夜遅くまで学校にいたということも、知ってか知らずか、綾香からの連絡はずっとなかった。そうこうするうちに、高総体の写真は選別も、焼付けもすべて終わり、校内に張り出される日を迎えた。


隆一が撮った理恵ちゃんの写真は、ピントが甘いものも多かったが、大量に撮ったおかげで、何枚かはいいものがあり、綾香のピンチヒッターとしての役割はなんとか果たせたといえる。

中でも、決勝戦、さよなら負けのときの理恵ちゃんの写真は、いちばんの出来だった。目を閉じ、ただ天を仰いでいる理恵ちゃんは、結果を知っている者には涙を、知らない者には勝ち負けの厳しさ、そしてさわやかな感動を与えた。


「これはいいね、なかなかいいよ! うん」

ヤワラちゃんにそう言われ、隆一は心から嬉しかった。


そのヤワラちゃんが照れまくった写真がある。これまた隆一が撮った、決勝戦で負けたとき、ヤワラちゃんがカメラを抱えて泣いている姿だった。ソフト部員たちがうなだれているのを、遠くから涙で見つめる写真部部長。校内に張り出されることはなかったが、写真部の中では評判をえた。


「雰囲気、わかりますよ。ヤワラ部長の涙、写真部も一緒に悲しんでいるっていう感じが伝わってきて、あたしたちまでじんときちゃう」

 ミックがそう言うと、

「そういえば、あたしたち写真部って、撮るばっかりで、自分たちの写真がないですよねー。いいなあ、ヤワラ部長は」

 とハナ。


「えー、あたし、撮られるほうはパス」

 ヤワラちゃんは真っ赤になったが、まんざらでもなさそうに喜んだ。みんな笑顔だった。

「今度、みんなでお互いを撮りあいっこしようよ」

などと盛り上がる。隆一はその輪の中で一緒に笑い、一方で、今日こそは病院に行かなくちゃな、と考えていた。撮った理恵ちゃんの写真を見せると、綾香に約束していたから。


 隆一はベタ焼きを入れた袋を抱え、重い足取りで学校を出た。

「あの…」

 誰かが声をかけてきた。周りを確かめるが、自分しかいない。隆一が声のほうを向くと、男子が立っている。見覚えのある顔だ。……あ、よく学食に来る……布引学院の後輩の坂口と一緒に座っている男だ。名前は知らない。


「これ…読んでください」

 男はそう言って、手紙を隆一に差し出した。


「今?」

 その男があまりにも無表情、無感情に手紙を渡すので、隆一は何かのお知らせだと思ったのだ。男は慌てて、

「いや…あとで…。おれじゃなくて…おれの友だちからのものです。友だちは坂口っていう名前です。あ、手紙に書いてあると思うけど」

 と早口で言い終え、走って逃げていった。


なんじゃ、ありゃ。一人取り残された隆一は、手紙を持ったまま、しばらく立っていたが、もしや…と思いついた。急いで手紙を開けてみる。…やっぱり。


「あなたを学食で見かけてから、気になって仕方がありません。一度会ってお話したい。お近づきになりたい。布引学院三年 坂口慎吾」


 隆一は手紙を何度も読み返し、それがやはりラブレターだと確信すると、ううっ、とうめいた。まさか、男からラブレターをもらうとは。それも、女装している自分に、だ。相手は、自分のいたバスケ部の後輩で、そして、綾香が好きな男なのである!


 どこかからさっきの男が自分を見張っているかもしれないと思い、隆一は冷静に手紙をカバンに入れた。どうしていいものやら、まったく見当がつかない。とにかく、この場を離れよう。


隆一は急ぎ足で病院へ向かった。途中、何度も振り返り、さっきの男がつけてこないか、確認しながら。


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