35 かけられる言葉
「まさかと思うけど、矢上はニューハーフに味をしめてないよな?」
園田がのぞきこむように尋ねた。
「まさか!」
隆一は声を荒げた。「そんなふうに感じるか?」
「いいや。矢上は、そのまんまがいいよ。少しかしこくなった、風まかせの矢上でね」
「ほめてる?」
「ほめてるのだよ、女子高生さん」
園田はまじめな顔で言ったあと、笑った。
そろそろ、と園田が言い、隆一も時計を見た。商店街のほうに目をやると、とぼとぼと歩いている中学生が目にとまった。
貴之の妹の瑤子ちゃんじゃないか。何も持たず、うつむいて歩く姿は瑤子ちゃんらしくない。
「知ってる子か?」
園田が尋ね、「親友の妹だ」と隆一はうなずいた。
「暗い子だな」
「いや、家から飛び出してきたのかもしれん。進路のことで家族と意見が合わなって聞いたから、それが原因かも。ああ、話しかけてやりたいけど、こんな格好じゃあな…」
隆一は舌打ちした。
「電話すればいいじゃん」と園田に言われ、携帯を取り出す。
「あ…瑤子ちゃんの番号、知らなかった…」
隆一は貴之に電話をかけた。やはり、瑤子ちゃんは親から特待生を選べとしつこく説得されているという。今、瑤子ちゃんを見かけたから、話してみるよ、と隆一は請けあい、番号を教えてもらった。すぐにかけてみるが、瑤子ちゃんは出ない。携帯を手にする様子がないところからすると、音が出ない設定にしているのだろう。
隆一はバッグからノートを出してページをちぎって、書きつけた。そして、園田に、あの子におれから託されたと渡してくれと頼んだ。おれが行ったら驚くだけだろ、と園田は嫌がったが、「名前を書いといたから大丈夫、ぱっと渡してくればいいんだ」とせかす。
仕方がない。園田はしぶしぶ、後をおいかけ、瑤子ちゃんに手紙を渡すと戻ってきた。もの陰からうかがっていた隆一は、瑤子ちゃんが手紙を読んでいる姿を確認し、ほっとした。がんばれよ、と胸の中でつぶやいた。
「なんて書いた?」
そう聞く園田に、隆一は「自分が選んだ道を信じるしかないよ、って書いた」と答えた。「おれがそんなこと言える立場じゃないんだけどさ」
「自分に対して言ってんだろ」
園田は隆一に親指を立てた。




