34 ニューハーフの同級生
「園田!」
「矢上!」
布引学院の同級生だった。同じクラスに一度だけなったが、親しく話したことはなかった。園田はサッカー部で、スタメンになったことはなく、物静かで目立つ存在ではなかった。それでも園田だと思いだせたのは、園田の、一度見たら忘れられない、真っ黒で濃いまゆげがそのままだったからである。
店に戻るのもママがやんやとうるさそうだし、園田も店に一緒に入るのは気がひけるようで、店から離れての立ち話になった。
「卒業してからこの仕事に…?」
隆一が小声で切り出した。
「ああ」
園田もママ同様、女装をしているだけのようで、前と変わらない声で答えた。
「驚いたろ? おれにこんな趣味があるとは」
隆一は首を横に振って言った。
「おれがうなずけるかよ? おれだってこんな女子高生だぜ?」
園田はくすっと笑い、隆一も応えて笑った。
「矢上は美形で知られてたからな、さすがに似合うよ、おれと違って」
「え、おれが美形?」
「知らないのは本人だけ、ってか。めでたいな」
「からかうなよ」
隆一はむっとした。
「ごめん、ごめん。ほんとに自覚なしか。おまえに憧れてたやつ、けっこういたんだぜ」
「げ~」
隆一は心底驚いた。あの学校でも、そういう奴らがいたのだ。
園田は商社に勤めており、週に何度かここで夜のバイトをしているという。お金に困っているわけではなく、楽しいからだ。きょうだいはみんな女で、女に囲まれて育ったため、女をふるまうことは自然にできる。ここでのバイトは仕事のストレス発散にもなっているというのだ。
仕事は仕事、ニューハーフのバイトはバイト。はっきりと気持ちを切り分けているところは見事だ。彼女もちゃんといるという。
「おれなんかより、ずっとしっかり生きているんだな、園田は」
隆一は、感心していい内容かわからないのに、妙に感心した。学生の頃は、まったく意識もしていなかった同級生。今は社会人の先輩としてたのもしく見える。女子高生になったいきさつを隆一が話すと、園田は腹をかかえて笑った。
「おまえらしいな」
「おれのこと、どんだけ知ってんだよ?」
「ちょっとしか知らないけど、すごくおまえらしい。いい意味で言ってんだよ」
ちっともいい意味には思えない隆一は、むっとした。ばかにされてないのはわかるが…。
「矢上はさ、自分から熱くならないだろ。いつものほほんとして風まかせ、みたいな感じ。悪くいえば、自分は関係ありません、的な」
あたっている。
「だからさ、社会人になってそんなじゃちょっと困るから、神様がちょっとおきゅうをすえられたんじゃないのか? ちょっと大人になれよ、って」
ううむ。さっきもママに、仕組まれたようなシナリオねえ、って言われたばかりだ。偶然じゃなくて、必然ってことか、この流れは。
「もうすぐ終わるんだろ。この事故で、いろいろ学んだはずだから、いい結果になるんじゃないのか」
「おまえ…楽天主義?」
「まあな」
クールな割に能天気さもある園田に、隆一は救われた思いがした。




