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おれは女子高生  作者: 奥田実紀
34/42

34 ニューハーフの同級生

「園田!」

「矢上!」


 布引学院の同級生だった。同じクラスに一度だけなったが、親しく話したことはなかった。園田はサッカー部で、スタメンになったことはなく、物静かで目立つ存在ではなかった。それでも園田だと思いだせたのは、園田の、一度見たら忘れられない、真っ黒で濃いまゆげがそのままだったからである。

店に戻るのもママがやんやとうるさそうだし、園田も店に一緒に入るのは気がひけるようで、店から離れての立ち話になった。


「卒業してからこの仕事に…?」

 隆一が小声で切り出した。


「ああ」

 園田もママ同様、女装をしているだけのようで、前と変わらない声で答えた。


「驚いたろ? おれにこんな趣味があるとは」

 隆一は首を横に振って言った。


「おれがうなずけるかよ? おれだってこんな女子高生だぜ?」

 園田はくすっと笑い、隆一も応えて笑った。


「矢上は美形で知られてたからな、さすがに似合うよ、おれと違って」

「え、おれが美形?」

「知らないのは本人だけ、ってか。めでたいな」

「からかうなよ」

 隆一はむっとした。


「ごめん、ごめん。ほんとに自覚なしか。おまえに憧れてたやつ、けっこういたんだぜ」

「げ~」

 隆一は心底驚いた。あの学校でも、そういう奴らがいたのだ。


園田は商社に勤めており、週に何度かここで夜のバイトをしているという。お金に困っているわけではなく、楽しいからだ。きょうだいはみんな女で、女に囲まれて育ったため、女をふるまうことは自然にできる。ここでのバイトは仕事のストレス発散にもなっているというのだ。

仕事は仕事、ニューハーフのバイトはバイト。はっきりと気持ちを切り分けているところは見事だ。彼女もちゃんといるという。


「おれなんかより、ずっとしっかり生きているんだな、園田は」

 隆一は、感心していい内容かわからないのに、妙に感心した。学生の頃は、まったく意識もしていなかった同級生。今は社会人の先輩としてたのもしく見える。女子高生になったいきさつを隆一が話すと、園田は腹をかかえて笑った。


「おまえらしいな」

「おれのこと、どんだけ知ってんだよ?」

「ちょっとしか知らないけど、すごくおまえらしい。いい意味で言ってんだよ」

 ちっともいい意味には思えない隆一は、むっとした。ばかにされてないのはわかるが…。


「矢上はさ、自分から熱くならないだろ。いつものほほんとして風まかせ、みたいな感じ。悪くいえば、自分は関係ありません、的な」

 あたっている。


「だからさ、社会人になってそんなじゃちょっと困るから、神様がちょっとおきゅうをすえられたんじゃないのか? ちょっと大人になれよ、って」

 ううむ。さっきもママに、仕組まれたようなシナリオねえ、って言われたばかりだ。偶然じゃなくて、必然ってことか、この流れは。


「もうすぐ終わるんだろ。この事故で、いろいろ学んだはずだから、いい結果になるんじゃないのか」

「おまえ…楽天主義?」

「まあな」

 クールな割に能天気さもある園田に、隆一は救われた思いがした。


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