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おれは女子高生  作者: 奥田実紀
33/42

33 前向きに

「なぜ」

 隆一は先が聞きたかった。この人は自分をからかっているのではないことがなんとなくわかってきた。


「さあ、なぜかしら。わかるから、わかるのよ。きっとね、理由があってそうなっているんだ、って思うからかな。本来なら、女の体に女の魂、っていうのが普通じゃない? それが自分は違う。

ってことは、何か理由があるからだってね。まあ、理由なんてわかるわけないんだけどさ、だからって赤の他人に聞こうとも思わないけど。とにかく修行だって思っているわけよ」


 隆一は黙って聞いていた。

わからない中に、説得力はあった。女になりたい衝動はさすがに自分にはなかったが、女に興味が持てず、つきあってもすぐにだめになったことなどを考えると、自分の魂ももしかして女なのかもしれない。

それに本当にそうなら、このまま女子高生でい続けたら、女になりたい気持ちが強くなってしまうかもしれない。ママはそれを心配して、自分に声をかけたのだろうか。


隆一はしばらくそのまま座っていたが、ぽつぽつと、自分がこうなったいきさつを、話し始めていた。この人は、聞き流してくれるだろう。自分の話をここだけの話にしてくれるだろう。誰にも話さずしまっていたから、話していると気持ちもだんだん楽になった。


「あと一週間くらいでこの役ともおさらばですから。期限があるからやっているけど、これがずっとだったら、それは、やっぱり、いやだ…おれは」


 隆一は、そうはっきりと言った。言ったことで、自分はずっと女でいるつもりはない、という気持ちがクリアになった。自分でも気持ちの整理ができたようで、驚いた。


「なんだか、仕組まれたみたいなシナリオねえ?」


 ママは笑いながら、「事故っちゃったのも、長い目で見ればよかったのかもしれないわね」と言った。つられて隆一も笑ったがぎこちなかった。ママのようにはまだ笑えないけど、いつか笑い飛ばせるようになりたいとは思った。

あんなことしなきゃよかった、とならないよう。事故っちゃったけど、あれはあれでよかったと、思えるようにしたいと、隆一は少し前向きな考えができるようになっていた。いやな思い出として封印したくはなかった。


「さてと、もう帰りなさい。遅くなっちゃったわ」

ママは立ち上がって、店の準備を始めた。なんだよ、聞くこと聞いたら用なしかよ? 隆一は拍子抜けしたが、後味はさわやかだった。


「はい、邪魔、邪魔。早く、帰んなさいな」

ママはそう言って、隆一をお店にひきずり込んだ要領で、今度はお店からひきずり出した。「じゃあねえー」ママはそう言ってドアを閉めた。しかしまたドアが開いた。


「もし働きたくなったらいつでも歓迎するわよ。あんた、すっごくきれいだから」

パタン。『鍵の穴』。看板にはそう書いてあった。きれいなんだ、おれ。隆一は笑い、鍵を閉めるパフィーマンスをして、きびすを返した。


そこに一人の女性が立っていた。ニューハーフ――ここの従業員だろう。筋肉質でごついが背が高く感じがいい。そのうえママを見たあとだから余計そう感じたのかもしれないが、とても若かった。思わずじっと顔を見てしまった。そして…見覚えがあることに気付いた。相手も隆一の顔をしばらく見たあと、あ、と声を出した。


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