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おれは女子高生  作者: 奥田実紀
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28 ピカピカのカメラ

夕暮れ、病室に行った隆一は、綾香の顔から、さよなら負けの結果をすでに知っていることを知った。結果を伝える役が自分でなかったことに感謝した。なんと告げていいのか、ずっと考えてきて、ついに答えが出なかったからだ。

綾香は肩をおとし、黙って窓の外を見ていた。こんなに気落ちした綾香を見たことはない。


「負けたけど…いい試合だったぜ…おれ、柄にもなく感動しちまったよ」

 隆一がつぶやいても、綾香からは何の返答もない。


「ほんとうは、お前がその試合を見るはずだったんだよな…本当に悪かったな…」

 綾香ははっとした顔で隆一を見、首を横に振って、辛そうに笑った。もう謝らなくていいから、という意味らしい。隆一は、綾香の肩にやさしく手をのせ、

「理恵ちゃん、立派だったぜ。男のおれから見ても、ほれぼれするくらい、かっこよかった。おれ、下手っくそだけど、ちゃんと撮ってきたからな」

と勇気づけるように言った。


綾香は隆一のやさしさがうれしくて、でもどう反応していいのかわからずに、そのまま黙っていた。写真を見なくても、隆一がしっかりやってくれたことは、ヤワラちゃん達から聞いて知っていたし、聞かなくてもわかっていた。

隆一の手の温かさが伝わってくる。このままずっと手のぬくもりを感じていたいと綾香は思った。隆一は隆一で、肩に手をおいたはいいが、いつはずしていいのかわからずに、戸惑っていた。


「あ、そうだ、カメラ…」

隆一は、「サンキューな」と言って、綾香の大事なカメラを返した。病院に向かうバスの中で、カメラはきれいにそうじされていた。そうじして返してといわんばかりに、バッグの中にそうじ道具がしっかりと納まっていたから――もっとも、綾香はいつもそうじ道具を入れているのだが。


でも、そうじ道具が入っていなかったとしても、ほんの数日でも、自分と運命をともにし、活躍してくれたカメラを汚いまま返すことは、隆一にはできなかった。ただのカメラだったが、そこには綾香の思いが入っていて、さらに隆一の思いも加わったのだ。カメラはそこで、ただのカメラではなくなったのである。

綾香は、ぴかぴかのカメラを、隆一が帰ったあとも、ずっと眺めていた。


翌日は高総体の代休で、休校だった。隆一は、時間も忘れて眠った。白鳥女子高生になってから、かれこれ一週間が過ぎた。こんなにも疲れ、安心して眠ったのは、久しぶりだった。


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