2 事故
その日は、数週間ぶりに面接にこぎつけた会社に向かうところだった。寝坊をして、面接時間に遅れそうだった隆一は、スクーターをふかして学校小路を飛ばしていた。
学生時代から通いなれた道である。ごちゃつく人や自転車をよけるのもうまいものだった。バスケ部で鍛えた反射神経はまだまだ衰えてはいないな、そう思った瞬間、女子高生が乗った自転車が突然、隆一の前に飛び出してきた。
後続の車がだいぶ離れていたので、大丈夫だと思ったのだろう、自転車は前を歩いていた生徒を抜かそうと、道路に大きくせり出してきたのだった。自転車についている鏡には、近づいてくる隆一のスクーターは死角に入っていて、映っていなかった。
慌ててブレーキをふんだが、隆一のスクーターは自転車の側面に激しくぶつかり、自転車もスクーターも大きく転倒した。
「キャーッ!!」
つんざくような女子高生たちの悲鳴とともに、天地がひっくり返った。一瞬のことだったが、隆一にはとても長い時間に思われ、倒れながら、自分はこのまま死ぬのだと冷静に考えていた。
「おい、大丈夫か!」
後ろから走ってきた車が急ブレーキで止まり、運転していた初老の男性が、慌てて駆け寄ってきた。
「あ…おれ…だいじょうぶ…です…」
隆一はゆっくりと体を起こした。ヘルメットが、隆一を守ってくれていた。
腰のあたりがずきずきするが、我慢できないほどではない。あれほど強くぶつかったわりに、骨も折れていないし、かすり傷程度ですんだようだ。
そんな自分に驚く間もなく、「おい! しっかりしろ!」と、叫ぶ運転手の声が耳をつんざいた。はっとして、倒れた女子高生を探す。隆一がぶつかった自転車はぐにゃりと折り曲がり、乗っていた女子高生は倒れ伏したまま、苦しそうな顔でうめいていた。
「救急車…!」
隆一はスクーターの椅子をあわててさぐって携帯電話を取りだした。