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おれは女子高生  作者: 奥田実紀
16/42

16 ばれたか?

 綾香の恨みがたたったのか、翌日も、隆一は男であることがばれそうになる危機に直面した。体育の着替えの時のことである。始まる前は、恥ずかしいからといって、更衣室ではなくトイレで着替えて難を逃れたが、終わったあとが問題だった。


久しぶりに動いて汗を流し、爽快な気分になった隆一は、あまりの暑さに、その場でシャツを脱いでしまったのである。男子校ではそれが普通だった。みんな裸になって、シャツで汗をふく。そのまま教室へ行って、汗がひいたら着替える。

そんな習慣が、抜け切れていなかった。ここは男子校ではなく、女子高で、そして、自分は女子高生であらねばならないのに――。


「杉村さん!」

「なにしてるの!」

「やっだー」


 周りの女子が叫び、自分を見ていることに気づいた隆一は、はっとした。やば、またやっちまった…。まだ上半身全部があらわになってはいなかった。首をひっぱって脱いだため、また、中にもう一枚、用心のためにシャツをきていたため、どうにか胸はかくれていたのだ。


 恥ずかしいといってトイレで着替えてきた人が、みんなの前でシャツを脱ぐなんて。さっちゃんの目は点になっていた。


隆一は、シャツで胸をおおいかくし、恥ずかしさで真っ赤になって、体育館から逃げ出した。どうしよう、なんて言い訳する? いや、言い訳なんぞ、通用しないだろう。みんな、おれが男だって気づいてしまったんだから。


 教室に戻った隆一は、携帯電話を取り出し、トイレに飛び込んで綾香に電話をかけていた。話し中である。隆一は舌打ちした。ああ、こんなに早くばれるなんて。このまま家に帰ってしまおうか。そのとき、隆一の携帯電話が鳴った。綾香からだった。


「もしもし…あたし…」

 隆一は思わず、叫んでいた。

「お、おいっ、ばれちまった!」

 電話の向こうの綾香に怒鳴られることを覚悟していたが、綾香はすぐに冷静な口調でこう言った。


「落ち着いて。今、さっちゃんから電話がきたの。だいじょうぶ、男だということはばれてないわ」

 隆一は全身の力が抜けた。よかった…。


「あんた、あれほど気を抜かないでって言ったのに。ばかね」

 綾香はこころなしか笑っているようだ。


「ご、ごめん…」

 隆一は素直に謝った。それしか言う言葉はないではないか。


「オープンな家庭で育ったから、野性的なところがあるし、裸になっちゃうことも普通にできるんだけど、学校じゃそういうことがないように緊張して過ごしている。それがストレスで引きこもりになったんだ、って説明しておいたわ。緊張がゆるんだり、開放的になると、そういう面がぽろっと出ちゃうって」

 綾香は淡々と続ける。


「思わずシャツを脱いだのも、クラスに慣れてきたところで緊張がゆるんだからだと思うから、それを責めたり、からかったりしないでくれって、頼んでおいた。

今まで以上に引きこもりにならないとも限らないからって。きっと今頃はさっちゃんがみんなに説明してくれてるはず。みんな、何事もなかったかのようにふるまってくれるわ」


 なるほど。隆一は綾香の説明を聞きながら、言い訳のうまさに感心していた。男であることがばれ、怒られて、もう学校に来るなと言われるほうが、隆一にとってはありがたい道だったにもかかわらず、その時の隆一は、自分の手落ちという罪悪感に苦しめられていた。


「そういうことだから、じゃあね」

 綾香が電話を切ろうとしたとき、隆一は慌てて言った。

「あ、ありがとう…。おかげで助かった…」


「あ、そうそう、筋肉質な体してるって、評判よかったわよ」

 綾香はおもしろそうに付け加えた。


「よかったわね」

「なにが?」

 隆一がむっとすると、電話はぷつっと切れた。隆一にはわかるはずもなかったが、綾香は電話を切ったあと、げらげら笑い、満足そうにほほえんだのであった。



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