15 修行
その夜の、母からの電話も輪をかけた。女子高生第一日目を心配して、母が電話をよこしたのである。そんなに心配なら、しばらくおれのアパートに住んで世話してくれればいいものを…。隆一はぶつぶつ文句を言った。
「なに言ってんの、そんな暇はないの、農家っていうのは忙しいんだからね。まあ、とにかく、ばれなかったのはよかったわ。もちろん、まだまだ先は長いから気は抜けないけどね。
あんた、毎日お嬢さんのところに行くんでしょう? 厭味を言われるかもしれないけど、黙って耐えるのよ。言い返して喧嘩なんかしたら、もともこもないんだからね、わかってる?
向こうも悪かったかもしれないけど、あんたは無事で、向こうは入院。元気だった女の子が、三週間も病院のベッドに釘付けにされるんだから、その気持ちを察してやりなさいよ。ただでさえ、人間、病気になると弱くなるんだから」
隆一は、もうケンカをしてしまったとはとても言い出せなかった。それに、ベッドで一日中寝たきりの綾香の気持ちなど、考えたこともなかったのだ。確かに、もし自分が綾香の立場だったらいらいらして、誰かにあたりたくもなるだろう。おれは年上なんだから、それくらい少しは察してあげるべきだった…。ちょっと、子どもっぽかったかな。
「向こう様がいい方で助かったんだよ、もっとひどい人は世の中、いっぱいいるんだからね。女装するだけで許してもらえるんなら、こんなにありがたいことはなんだから、あんたはこれが修行と思ってがまんするんだよ」
母は念を押すように言った。隆一はうなだれたまま、電話を切った。
修行か…。確かにな、これは修行だよ。いい加減だったおれに、神様がバツを与えたのかもしれない。隆一はしばらく考え、明日、綾香にあやまろうと決めた。