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おれは女子高生  作者: 奥田実紀
13/42

13 フィルムカメラ

机の上では、さっきヤワラちゃんが用意したアルコールランプで、ビーカーに入れられた水が沸騰していた。ヤワラちゃんは慣れた手つきで火を消すと、お茶パックを入れ、ほどよい緑色になったお茶を湯飲みに注いだ。


「ガスを使っちゃいけないからね、お茶はこうして飲むわけ。物理部との共同部室らしいでしょ。ビーカーはきれいだし、誰もおなかこわしたことないから安心して」

 そう言って、ヤワラちゃんはおいしそうに口をつけた。隆一はあっけにとられてそれを見ていた。


ドアが開き、次々と部員が入ってきた。

「あー、みんな来た、来た。座って」

 ヤワラちゃんは、揃った部員を前に、元気よく言った。

「こちら、綾香のいとこ。綾香が入院中、助っ人に来てくれるって、話したよね。部名は…フリー」

隆一はぴょこんと頭を下げ、

「写真は…素人なので…すみません…」

 と、弱々しげに見えるよう、付け加えた。


他の部員が、学年と部名を言って、自己紹介をした。6人しかいないので、苦労せずに名前も覚えられそうだ。三年は綾香、ヤワラ部長、ミック副部長とハナの4人。あとの二人は二年生だ。一年生が一人もいないので、このままだと廃部になる可能性もあると、ヤワラちゃんが悲しげに話した。


「同好会に格下げすれば、継続していけるけど、写真同好会、じゃあ(はく)がないわよね。この総体で、活躍してる私たちの姿を見てもらって、また勧誘しないとね!」


 ヤワラちゃんは張り切って、高総体の予定と場所が書かれた用紙を配った。各自の割り振りが話し合われた。隆一は、綾香が言っていた通り、ソフト部、それ以外はテニス部につく。ヤワラちゃんとのペアでの行動だ。


「カメラだけど…綾香が自分のカメラを貸すのはいやだっていうんで、部のカメラしかないんだけど、我慢してくれる? 古いんだけど、性能は劣ってないから」


 ヤワラちゃんは旧式のカメラを出してきた。慣れてくると、みな自分のカメラを買うようになるため、部が保管するカメラはいつまでも古いままである。ヤワラちゃんが親切に使い方を教えてくれる。


「いい加減、デジカメに移行しなくちゃいけないんだけどね…やっぱり、自分たちの手で現像して、焼付けする、っていうのが名残り惜しくてね…古いっていわれるかもしれないけど、あたしたちが部にいる間はフィルムのままいこうって、みんなで決めたの」

 とヤワラちゃんは言った。


「そ。だから、あたしたちが撮るのは全部白黒。意外と人気あるのよ、白黒写真って」

 隣に座っていた副部長のミックが笑った。ミックはヤワラちゃんと並ぶとやけに細く、華奢(きゃしゃ)だ。色白で栗色の長い髪が色っぽい。同じ年齢でも、いろんなタイプがいるものだと、隆一は妙に感動していた。


「現像も焼付けも、全部自分でできるし」

「そうそう! おもしろいよ、失敗も多いけどさ」

「アナログのよさ、フリーにもわかると思うよ!」


 部員たちはフィルム写真のよさを語った。隆一がフィルムを嫌がらないように、という配慮からではなく、心底フィルムが好きだということがわかった。


「高総体までは、放課後の各部活の練習風景も撮っておいてね。思い出として、各部にプレゼントする分だから。集合写真もできれば撮ってあげて。受け持ちは高総体のときと同じだから、部長さんに挨拶しておくようにね。

練習風景の撮影用のフィルムは、いつもと同じようにノートに持ち出し数を記入して、棚から持っていっていいから。これから渡すのは、高総体当日のフィルムだから、間違えないでね。あ、それから、腕章は校内でもつけてほしいって、先生から言われてるからよろしく」


 フィルムが配られ、話し合いが終わった。高総体まであと4日だ。運動部の気合の入った掛け声が、開け放した窓から飛び込んでくる。


隆一は、ヤワラちゃんの「今日はもういいよ。病院に行くんでしょ」という心配りをありがたく受け取り、病院へと向かった。

緊張と気づかれで疲れてしまい、これ以上学校に留まっている力がなかった。


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