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おれは女子高生  作者: 奥田実紀
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1 矢上隆一

 バス通りまでまっすぐ突き抜けるその道は、学校小路(がっこうこうじ)と呼ばれている。長さにしてわずか2㎞にも満たない道にもかかわらず、両側には小学校、中学校、そして男子高、女子高がひしめくように並んでいるからだ。

道路の交通量はけっこうあるが、幅が7mしかないので、路側帯はない。多くの学生が行き来する道なのに、通行時間帯制限もなく、学校小路は別名‘危険小路’ともいわれ、自分の体すれすれに車が通りすぎることは、日常茶飯事であった。

むろん、人と自転車、車の接触事故は後をたたず、矢上隆一(やがみりゅういち)が事故を起こしたのは、地域の人たちが改善策を模索している最中のことだった――。


 学校小路にある男子高「布引学院(ぬのびきがくいん)」を卒業した隆一は、印刷会社に就職したが、印刷機の轟音(ごうおん)や、紙との格闘に毎日明け暮れる変化のない仕事に嫌気がさし、一年もたたないうちに会社を辞めた。おれは若いんだ、次の就職先はすぐに見つかるさ、とたかをくくり、安易に辞めてしまったのだった。


布引学院は、県内外から頭のよい生徒が集まる高校で、大学進学をめざす人がほとんどである。明治時代から続く伝統ある学校だが、時代の先をゆく自由闊達(かったつ)な教育方針で、政治家、医者、学者、そして芸能人まで、多くの著名人を輩出してきた。


就職難といわれる状況にあっても、ここの生徒とあらば、無理をしてでも受け入れてくれる企業が多かった。就職を希望する生徒はただでさえ少ないから、成績が「下」のランクに入る隆一でさえ、難なく就職が決まった。

学校の知名度と推薦(すいせん)があったからなのだが、隆一はおのれの力と、多少なりとも天狗になっていたのは間違いない。できない人間の思いあがりほど、やっかいなものはなく、それはあっという間にたたきのめられることになった。


たった一年も耐えることができずに辞めた19歳の若僧は、当然ながら忍耐力に欠けると判定され、もう、いくら学院の名前があっても、採用してくれる会社は見つからなかった。現実社会の厳しさを、己の甘さを、隆一は嫌と言うほど思い知らされたのである。


何もしていなくてもおなかはすくし、借りているアパートの家賃やら光熱費やら、出費は情けをかけてはくれない。自分勝手に会社を辞めた隆一に、親の援助がもらえるはずもなかった。「家に戻って農家を手伝うか、自分でなんとかしろ」というのが両親の言い分だった。


隆一の家は電車で2時間もかかる山あいの農家だ。バスは一時間に一本しか通らず、そばにはコンビニひとつなく、一番近い村の売店までも、車で30分もかかるような田舎。周りにいるのはブタやウシなどの、動物ばかりである。

真っ黒になって土いじりするのなんか、ごめんだ。おれはかっこいい仕事がしたいんだ。


隆一は都会的な生活に憧れていた。田舎は大嫌いだった。だから戻る気などさらさらない。アルバイトをしてでも、ひもじい思いをしてでも、町にとどまっていたかった。隆一はアルバイトをしながら、就職口を探し始めた。


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