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ふたりぐらし!~ハゲたおっさんとボッチな魔女のスローライフ~  作者: 黄色いインコ
第一章 おっさんと魔女は仲良くなりたい
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 9話 お母さんはドラゴン

 空から降りてきた赤いドラゴン。今、ショベルカーの隣にいる。


 唸り声を上げる大きな口。白く鋭い牙と二本角。そして金色の瞳が俺を睨む。

 突然ドラゴン現れても何もできねぇ。ショベルカーで脅かしてやろうか?


「殺してやる。炎で焼きながら、牙でゆっくりと噛み砕いてやる」


 あ、ショベルカーのアームが噛み砕かれたんですけど。バキンバキンいってるぅ。俺の転生人生、終わった。ハゲとの別れは喜ばしいが。


「ま、待ってお母さん! グランさんは、私のためを思って……!」

「これのどこがマリーのためなのか、分からない。それに教えた魔法や魔女の力でどうして対抗しなかった? そういうところがいつまで経っても子供なんだよ」

「そ、それとこれとは話が違うわよ!」


 お、ん、ほう?

 ドラゴンの意識がハーマリーに移ったぞ。俺の転生人生、まだ続くようだ。ハゲとはまだお付き合いするらしいな。悔しい。


「同じことさ。ふん、透明魔法なんて教えるんじゃなかったよ。ほら、それを解いてやろう」

「え、ちょっと……いやぁっ!!」


 え、ん、ちょっ……木のツタが邪魔で見えないんだけど。目を凝らして、隙間を~~見えた!! あの時見た金髪が見える。顔、顔は……見えねぇ。


「その木のツタも焼き払ってやる」

「まままっ、待って!! お母、きゃぁっ!!」

「ハーマリーッ!!」


 こいつ、本当に炎をだしやがった!

 ショベルカーを飛び出して、地面に突き刺さった一刀を握った。飛びかかろうと足に力を入れた、その時。


「動くな小僧!!」


 咆哮が体に重く圧しかかる。クッソ、なんて威圧だ。い、いや……今はそんなことよりハーマリーだ!


 力を込めて顔を上げる。炎は木のツタを燃やし尽くしていた。

 煙が多くて見えねぇ。すぐに姿を確認できなくて、緊張で喉が鳴る。しばらくすると煙が晴れた。現れたのは――――虹色に輝く透き通った防御魔法だ。


「ハーマリー、無事か!?」

「は、はいぃぃ」


 ほっ、良かった。お、防御魔法が切れる……忘れかけていたハーマリーの姿が拝める!?


 あの時俺もテンパってたから、あんまり覚えてないから楽しみだ。

 あ、綺麗な金ぱ――――あぁぁ、黒い魔女の帽子が飛んできたぁぁっ!! 黒のローブもやって来やがった!!


 帽子とローブで……見え、見えない。全然姿が見えない。

 なんてこった、俺の頭皮はこんなにも丸見えなのに!!


「もう……お母さんのいじわる」

「ふん。出来損ないの娘を持って私は不幸だよ。さっさと人里に下りないから、こうやってまだ面倒みる羽目になるじゃないか」

「わ、私はもう24歳よ! 子供扱いしないで!」

「私の子供は死ぬまで子供扱いしかしないよ」


 ツン、デレ……お母さま?

 言い方キッツイけど、めちゃくちゃ子煩悩じゃねぇか。ん、こっちを見やがった。すんげー睨んでくるし、怖すぎてハゲそう。……ハゲてたわ。


「お前の行動は見ていた」


 ちびりそう。


「本当なら噛みちぎって、火山に放り込みたい。だがお前は役に立ちそうだ。この子の夢に一役買ってもらうよ」


 はい、おまかせくださいおかあさま。


 ふん、と強く熱い鼻息が襲いかかり、俺は後ろに転がった。灰かぶり姫じゃなくて芝生まみれのハゲ頭じゃねーか。生やしたいのは毛だよ毛!


 ◇


 キッチンの隣の部屋はくつろぎの居間になっており、そこに二階へ続く階段がある。きしむ音を聞きながら二階へ上がり、部屋を横目に見た。


 並べられた様々なミイラがハローしている。

 ほんっっっとうに、ここだけ嫌いだ!


 どうして上がった先にあるのが、いい匂いのする可愛らしいハーマリーの部屋じゃないんだ!

 別に臭くはないが、視界が怖い。いつ動き出すんじゃないかと心配。初めて見た時は階段から転げ落ちて、毛が二本抜けたわ。あぁぁ、思い出しただけで鬱る。


 だが、今日でこのミイラ共とお別れらしい。今、ハーマリーが近くの大窓を開けてミイラに浮遊魔法をかけて外に運んでいる。んで、運ばれたミイラは……


「干物は味が濃くて美味いな」


 お母さまのおやつになってた。


 バリボリいって食って、骨を吐き出しているのだが。い、いや……言ってることは分かる。干物美味しいよな、酒のつまみにもなるし飯のおかずにもなる。だけど魔物を干して食べるって……狂気。


 しかも魔物を収穫して干しているのが、ハーマリー。一連の工程を想像して、少しだけぞっとした。


「もっとおくれ」

「一度に沢山食べないで。作るの大変なんだから」

「狩ってきているじゃないか」

「ボロボロになった魔物じゃできないわよ」


 微笑ましくない家族の会話だね、おっさんは辛い。


 それ以上にハーマリーの格好が辛い。魔女の帽子を深く被って、襟の立てたローブを羽織っている。唯一、隙間から覗く金髪のゆるふわウェーブが凄く綺麗。いやいや、簡単には(ほだ)されんぞ! 


「それお母さんの食べ物だったんだな」

「ははっはいっ」


 おい、以前に逆戻りだぞ。こっちをめちゃくちゃ警戒しているんだが。あ、今帽子を深く被り直したな。こっちを見ようとはしないのは悲しい。うーん、どうしたものか。


「このバカ娘が。それじゃいつまで経っても変わらないじゃないか」

「でででっでもっ」

「まったく、あんたはいつもそうやって――――」


 あ、お母さんの説教が始まったわ。

 俺はそんな時期ばっかりだったなぁ。勉強しろとか早く寝なさいとか、あーだこーだ言われた。成長するにつれ対応も適当になったりしたもんだ。


 今思えば……って、終わったみたいだな。視線を向けると、大窓の奥から金色の瞳がこちらを睨んでいた。ひぇっ。


「そこの人間」


 え、俺?


「ちょっと表に出な」


 決闘はご勘弁くださいませんか? 


 ◇


 お母さんに呼び出され、家から少し離れた芝庭に来た。日が高く、影は濃いが小さい。頭皮に直射日光があたり、俺はとても熱い。


「……眩しい。お前の頭はふざけているのか」


 どうして俺はハゲであることに、こんなにも責められないといけないのだろうか。


「……そういう仕様だ」


 クッソ、俺の眩しい頭にひれ伏せ!


「だったら頭を隠せ。眩しくて敵わん」


 うるせぇっ!! こっちは好きでこんな頭になったんじゃないぞ。

 はー、悲しい。とても悲しい。傷心するおっさんだわ。仕方なしにアイテムボックスから白いタオルを出して、頭に巻いて縛る。


「これでいいか」

「はじめからそうしていればいいものを。みすぼらしい」


 オープンマイハゲなんだよ!!

 隠すのは俺のプライドに関わる問題だ。決して譲ることはできない。……ハゲ談義している場合じゃなかったな。


「それで俺に話とは?」

「不遜な態度だね、まぁいいさ。お前たちの動向は遠くで見ていた。マリーが変われる絶好の機会だと、見守っていたが……二人そろって情けない」


 とても重い溜め息を吐いた。なんか人間臭さを感じるな、ドラゴンだけど。


「それについては俺も過ちに気づいた」

「やり方が気にくわなかったがな。あの子が人と一緒に暮らしたいと言ったから放任していたが、あの有様さ。私のところに戻る気はない、と強情を張る気概はあるんだけどねぇ」


 ふぅ、と強い鼻息が俺に当たる。ちょ、タオル飛ぶからやめて。

 でも心配しているのは分かった。金色の瞳が憂いているように見えて、親が子を想う光景に見える。しかし、どういう関係なんだ?


「……もしかして、ハーマリーはドラゴンが人に化けた?」

「あれは違う。人の腹から生まれ出て、捨てられるよう神に運命づけられた命さ。前世でも同じだったようだが、人ならざる者の手であの子は二度も育てられた。だからかね、人と暮らすのをずっと夢見ていた」


 前々世の罪ってそんなに重たいものだったのか?


 人として生まれたのに、千年以上も人と接する機会を得られなかったハーマリー。俺だったら寂しくて気が狂いそうになる。きっと、記憶全部消してしまいたくなるだろうな。


 お母さんが大きく背伸びをして、背にある翼を目一杯伸ばした。


「透明魔法は呪術で使えなくしてある。お前は丁度いい、似た者同士だ。あの子を……マリーを人の輪に戻しておくれ。だが、マリーを傷つけた場合はお前を噛み殺す」


 羽音を立てて赤いドラゴンの巨体が浮く。


「私はずっと見ている。ゆめゆめ忘れないことだ。また来る」


 耳が痛くなるほどの風圧に、頭に巻いたタオルは吹き飛んでハゲがあらわになる。だが、俺自身は飛ばされない。


「ふん。名を聞こう」


 体に力さえ入れれば、至近距離からの風圧でも耐え切れるぞ。だから安心していけ。


「グラン・ギャロック。とある傭兵団の特攻部隊長だ」

「……聞いたことのある名だ。強者は歓迎しよう」


 おう、後は任せとけ!

 ハーマリーを人の輪に戻して、俺のハゲ頭をついでに治すからな!

 ……え、俺のハゲはついでなのか?

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