表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふたりぐらし!~ハゲたおっさんとボッチな魔女のスローライフ~  作者: 黄色いインコ
第一章 おっさんと魔女は仲良くなりたい
6/43

 6話 ドリアードと一緒

 力尽きて芝生の上に倒れる。あー苦しい、汗が気持ち悪い。仰向けに転がると強い日差しが照りつけ、残った体力を奪っていく。


 ドリアードたちに面白いおもちゃ認定されたらしく、散々いじられそうになった……頭を。必死に逃げたが、あいつら体力底なしでやめてくれなかった。あー……疲れたわ。


「あ、あの……」


 サクサクと芝生の音に混じり、か細いハーマリーの声が聞こえる。少し寝かせ……これは飯の匂い!?


 すぐ起き上がると、宙にウサギのお面と布のかかったバスケットが浮いていた。……こういう絵ずらにも大分なれてきたけど、急に見ると心臓に悪い。


「お昼、にしませんか?」

「助かる。走り回って腹が減ったところだ」

「くす……すっかり仲良し、ですね」


 仲良し? 冗談じゃない、こっちは四十になって体の自由が徐々に利かなくなっているんだ。幼稚園児みたいな体力お化けに付き合ったら、こっちの身が持たないわ。……自分で言ってて悲しくなってきた。


 傭兵稼業も身を引いたほうがいいんだろうなぁ。最近たまに膝腰肩が気になる。はぁぁ、六十超えてもバリバリ前線で戦ってる同僚がすげぇーわ。


「悲しい顔されて、どうしたのですか?」

「いや、ちょっと……年取ったなぁっと」

「そう、なのですか? お若い感じに見えますけど」


 コテン、とお面が傾いた。

 うぅん、これは素直に喜んでいいのか。というか、若い基準ってなんだ? 白髪、皺、外見……あぁ、駄目だ駄目だ。考えると落ち込むわ、ハゲ的に!


「まぁ、それは置いておこう。地面に座りながら食うのか?」

「テーブルとイス、用意します。ドリアードたち、お願いできる?」


 また家具の部品でも作るのか、それはそれでめんどくせーな。俺はどこでも大丈夫なんだが……


「テーブルとイス、あと木陰も用意してあげる!」

「代わりに綺麗なお水ちょーだい!」

「励めよ乙女」

「たっぷり作ってありますよ。お願いします」


 芝生の上でドリアードたちを見守っていると、地面に向けて手をかざしている。なんだなんだ、何が始ま――――


「うおっ」


 地面から無数のツタが伸びて来やがった。う、動きがヘビみてぇだな……ちょっと気持ち悪い。


「伸びて、曲がれー!」

「編み込み編み込み!」

「生えろ」


 くぅ~、俺の頭にも毛が生えて欲しい。

 悪意ある言葉が気になるけども……ツタが伸びて絡み合って、あっという間にできてしまった。背もたれと座面に草まで生やして、クッション性もあるな。


 あれよあれよという間に日よけに一本の木も育つ。葉っぱの部分が大きくて、日陰が広がっている。


「すごいな、これは。こいつら精神体なんだろ。どこにそんな力が……」

「精神体を具現化する時に宿木の力を持っていくので、その力を使っていることになりますね」


 ……人ならざる者の代弁者、か。善悪がない力のようだ。使いようによっては、世界を揺るがす力になり得るような気がする。

 魔女という単語は転生してから聞いたことが無かったからな。秘密、にしておいた方が良さそうな力だ。


「あなたたちも疲れたでしょう。風に頼んで水を宿木まで運びますね、ゆっくり休んで下さい」

「わーい、ありがとう!」

「後で戻ってくるからね! 久しぶりに具現化したから、今日は一日中遊ぶぞー」


 うわぁ、嫌な言葉聞いてしまった。しかも、全員で俺を見るな。


「しっしっ、もう戻ってくるな」

「一人で組み立てられるんだったら、それでもいいけど~?」

「ちゃんとできる?」

「初心者には無理」


 くっ、こいつら……家具の組み立てを人質にしやがった。


 俺が渋った顔を浮かべると、ヤツらは笑いながら森へと飛び去って行く。その後ろを空飛ぶ大量の水が追いかけた。はー、どんな力を使えば水が器用に空を飛ぶのかね。


「午後は静かだと良かったのだが」

「ドリアードたちは、夕暮れまで……ここに居座ると思いますよ。日が落ちたら眠りについてしまうので、そこまでの辛抱です」


 思ったよりも先は長かった。……あ、また笑ってるよ。ちょっと和んだ。


 ◇


 昼食は野菜とベーコンのサンドイッチ、りんご、ミルクだった。


 美味しいんだが、素朴な味で俺にはちょっと物足りなかった。なんかこう、体に良さそうな味つけ。走り回った俺としてはちょっと塩っ辛いものが欲しかったなぁ。と、心の中で思うだけだ。


 食い終わってから芝生の上でごろ寝をしているところに、ヤツらは群れを成して戻ってきた。虫に集られているかのように、ヤツらは俺にへばりつく。

 えぇい、うっとうしい。あぁっ、頭、頭はやめてっ……お願いっ!


 そして、今はハーマリーハウスの中に逃げてきた。


「さぁさ、組み立て組み立て」

「寝具はマリーに任せて、組み立て組み立て」

「どこに置く? やっぱり窓際が一番だね!」

「若気の至りに気をつけろ」


 一人じゃない。ドリアードたちと一緒に談話室にいる。歌うように楽しく会話をしながら、ソファーやテーブルを動かしていた。


 あぁもう分かってたよ、逃げ切れないことは! 現実逃避をさせちゃくれねぇ!


「はぁ、とりあえず窓開けるぞ。埃で息苦しくなる」

「グラン、組み立て組み立て! 早く早くー」

「……わーったよ」


 急かされるのは好きじゃねぇ。窓を開けてっと、早く終わらせて放逐してやるからな! 特に一匹は確実に!!


 ◇


 と、思っていた時期が俺にもありました。


「えーっと、次の部品は……これか? いやいや、こっちか?」

「グラン、これこれ~」

「あー、サンキュ」

「木づちでトンテンカン、トンテンカン」

「踊るなよ、絶対に踊りながら叩くんじゃねーぞ」


 あの後めちゃくちゃ協力し合って、ベットの組み立てをしている。


 こいつら真面目に仕事するかと思ったら、歌って踊りながらやり始めやがった。止めようとして割って入ったら、木づちで頭叩かれた。それでハゲ頭が一部赤くなってしまう。


 もう、それで切れちまったな。全員捕まえて、説教してやったわ! フハハッ、おっさんを怒らせると怖いんだぞ!


 ……ま、その後ちょっとだけ、ほんのちょっとだけフォローしてやった。今では皆で協力し合っている感じだ。どんどん組み上がっていくのは気持ちいい。これで最後のパーツか……よし、はまった!


「完成した!」

「わーいわーい!」

「お疲れ!」

「感無量」


 ドリアードたちが喜んで手を繋ぎ踊っている。ま、完成したし許してやろう。


 改めて完成したベットをみると、ダブルベットほどの大きさがある。単純に広いベッドで寝れることが幸せだ。宿舎のベットは狭くて固くて臭くて、ギシギシうるさい。


「さて、あとは寝具だが……どうなっているんだ?」


 そうだ、重要な寝具を忘れていた。開けていた窓から覗き込む。遠目からでも分かるほど、大量の綿があった。


 その綿の上でドリアードたちが楽しそうに何度も跳ねている。その傍にはお面が浮いており、膨らんだ大きな布を何かしていた。……あれ、俺の寝具はまだ?


「わー、楽しそう!」

「最後はあれで遊ぼう!」

「いざ出陣」

「うわっ、危ねぇ! こら、急に飛び出すな!!


 こいつら、どうしてすぐ楽しそうな所へ飛びだしていくんだ。ったく、だがお陰で一人になれ――――


「ねぇねぇ、グラン」


 なかった。


「なんだよ、お前はいかないのか?」

「行くよ、行く行く。でも、聞きたいことあるんだ」

「……はぁ、何が聞きたい?」

「マリーのこと、どう思う?」


 マリーってハーマリーの愛称か。どう思うって言われてもねぇ。


「……恥ずかしがり屋か?」

「合ってる~。他には?」


 他にはって……うーーん。


「……人が嫌い?」

「違うよ~、マリーは人のことを好きだよ。ただちょっとだけ、臆病なだけなんだ」

「あぁ、まぁ……怖いって言ってたもんな」

「むしろ自分が嫌われているから、人目を避けているだけなんだよ」


 嫌われているって、世界は違えど千年以上も一人で生きてきたんだろ? ……嫌われる相手、いないんじゃないのか?


「マリーにはずっと昔のマリーが残っているんだ。だから、いつまで経っても魂がブレているの」

「……なんだ、それ。どうして俺にそんなことを」

「だって、同じだから。同じ魂を感じたよ」


 同じ魂? マリーと俺が似た者同士っていうのか?


「二人が出会ったのは神さまが導いた運命なのかもね! あーあ、どうなるか楽しみ!」

「おい、こら待て!!」


 ちょっと待てよ、どういう意味だ!?

 訳が分からんぞ、何が言いたかったんだ……魂がブレてる?

 なんだそれ、転生の影響なのか?

 だったらあの神のせいじゃないのか?


 いくら考えても答えは出なかった。ただ、訳の分からない不愉快さだけが残っている。同じ魂、ブレている魂。俺とハーマリーを繋ぐ共通点の原因は分からない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] くぅ~、俺の頭にも毛が生えて欲しい。 吹き出しました、私は笑いの沸点が非常に低いようです。 それと我慢できずごめんなさい、次こそは。 あぁっ、頭、頭はやめてっ……お願いっ! もうね、…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ