42話 傭兵団特攻部隊長グラン・ギャロック
「始祖の吸血鬼を倒した創造スキルの真骨頂、見せてやるっ!!」
すぐに一刀を構え直し、意識を集中する。
創造しろ!
ダイヤモンドにはダイヤモンドで。
攻撃力増幅は回転の力を。
回転の力は機械の力だ。
「《エンボディ》っっ!!」
俺の叫び声に反応して一刀が光る。想像したものが、直接具現化されていく。
刀身に巻きつく、ダイヤモンドで創造された煌びやかなチェーン。根本部分には手動のエンジンが備えつけられている。
即席、対ゴーレム用《チェーンソー版の一刀》だ。
紐を引っ張ると、音を立ててエンジンがかかる。激しい振動が手を伝って体に広がる。スイッチを押すとチェーンが高速で回転を始めた。
「行くぞ!」
補助魔法とスキルによって限界まで強化された体のまま、再生を始めるゴーレムに駆け寄る。
その時、いくつもの髪の毛が抜ける気配がした。
あぁ、クソッ!!
悲しみをぐっと堪えて、俺は敵を見据える。大丈夫だ、マリーがいる!
「まずは、足だ!」
直径二十メートルはある足首が俺の前に立ちはだかる。体を捻り、改造された一刀を構えた。全身に力を込め、地面を蹴って飛びかかる。
「喰らえやぁぁああっ《一刀両断》っ!!」
チェーンソーの騒音をまき散らし、渾身の力で振りかぶる。魔法、スキル、回転。集約した力を食らいやがれっ!
ぶった切れろぉぉぉおおおっっ!!
接触の瞬間から砕けて散っていく足首。
破片が飛び散るが、防御魔法が守ってくれる。
皆が力を貸してくれたんだ、俺が倒さないで誰がやるんだっ!!
このままいけっ――――そう思った時、手元に強い衝撃が走った。爆発音を立てて、手動エンジンから煙が噴き出す。
しまった、創造したエンジンでは耐久力が足りなかったのか!
俺は急いでその場を離れる。その時、俺に狙いを定める魔力の波動を感じた。
すぐさま立ち止まり、一刀を抜き取る。周囲を見渡すと、取り囲むように氷の棘が宙に製造されていた。先端から異様な殺気が滲み出る。
ま、そう簡単にはやらせてくれないよな。
……くるっ!!
一刀を握る手に力を込め、緩める。クルリと器用に刀をまわし返えすと、棘が一斉に飛んできた。
「ぬおぉぉぉぉおおおおっっ!!」
神経を研ぎ澄ませ、殺気を感じとり――――一刀を叩きつける!
決して止まらず、一本の川になって流れ続けろ。
滑らかにしなやかに体をしならせて、叩きつける一瞬に力を込める。
目で追うな、感じたままに叩きつけろ。
一切の緩みを捨て、この瞬間を生き残れっ!!
砂埃を上げて、体と一刀を一回転させ――――俺は止まった。
「ふぅぅっ」
氷の棘は全て撃ち落とした。ゴリ押してくるヤツはカモだな。これならマリーと水球で遊んだ時のほうが緊張感あったわ。
マリーはただの魔法を使える魔女ではなかった。しっかり獲物を追い詰める知恵があり、経験豊富な俺でもやられた。
あの時の笑顔が脳裏をよぎる。
あそこに戻りたい気持ちがどんどん大きくなってきた。
「ぐずぐずしている暇はない」
ちまちました戦い方は俺らしくない。圧倒的な攻撃が俺の持ち味なはずだ。
再びゴーレムから魔力が放出される気配を感じて、俺はその場を離れる。走りながら通信ネックレスに魔力を通した。
「団長、グランだ! 今から奴の赤黒いところまで跳躍する! 空間魔法で固定してくれ!」
『奴の正面にでる気か!? 餌食になるだけだぞ!』
「頼りにしている!!」
『全く、お前のいう奴は!!』
ブツン、と通信が切れる。あれだな、団長はブツ切りの名人だ。
ある程度距離が離れたところで、あらためてゴーレムを見上げた。百メートル以上はあるであろうその巨体。
お母さんの一撃で全身がひび割れ、俺の一撃で肩から股まで真っ二つにされている。再生能力で体は少しくっついて、なんとか立っている状態か。
そして、再通信が入った。
『レイだ。準備完了した、いつでもいけるぞ』
『おい小童!! 一撃で仕留めるんじゃぞ!!』
「わーったよ。それじゃ、頼むぞ」
こんな時に魔法ジジイの声なんて聞きたくねぇよ。相変わらずやかましい……が、頼りがいがあるところ嫌いじゃねぇ。
頭をかくと、生え変わった所の一部が立派にハゲていた。悲しい……が、俺はもう絶望しない。マリーがいる。
絶対に今日中に帰って、また治してもらう。それを考えるだけで、体中から力が滾って仕方がない。
一刀を背負うと、深くしゃがみ込む。両手を握ったり開いたりして、ぐっと力を入れる。
「俺の毛根、好きなだけ持っていきやがれっ!!」
渾身の力で地面を蹴り上げ、高く跳躍する。ハゲた頭頂部が寒く感じるが、気にするな。
視線をゴーレムに向けた。赤黒い何かが次第に大きく見えて、同じ目線まで来る。その瞬間、俺の体に空間固定魔法がかかった。
創造しろ、ヤツの体を真っ二つにする武器をっ!!
「こい、こい、こいこいこいぃぃっ!! 《エンボディ》ィィイイイッ!!」
手元から具現化する柄。平たい刀身を出現させ、両側にかみ合わせた歯車を具現化。歯車には先ほどと同じチェーンを巻く。それらを限界まで長くして創造していく。
だが、ここでゴーレムから魔力の波動を感じた。
また同じ魔法がくるっ!
俺の目の前に無数の氷の棘が次々と出現していく。
クッソ、援護は間に合うのか!?
その時、上空からお母さんの咆哮が聞こえた。
「《火炎ブレス》!!」
一瞬で俺とゴーレムの間に火の壁ができた。無数に出現した魔力が霧散していくのを感じる。
こんなにありがたい援護はない。
「遅い、早く決めてしまえ!」
小言すらも応援に聞こえるな。だが、お陰で完成した。
ずっしりとした感触。宙に一本の長い人工物が横に生えている。五十メートルほどの特製チェーンソーだ。エンジンに頼らない、歯車で動かすだけの簡単な構造にした。
顔を上げると、今も火の壁が俺を守ってくれる。
この援護は絶対に無駄にできない。
深く呼吸をして……集中しろ。マリーと一緒になって鍛えただろ。
チェーンソーに俺の魔力を流して、歯車を回すことだけを考える。
回れ、回れ、絶対に止まるなっ!!
「うおぉぉおおおっ、回れぇぇぇえええっ!!」
けたたましく響く金属が擦れる音。
まだだ、まだ足りない、遅い!!
もっとだ、もっと早く、力強く回りやがれっ!!
火の壁が消え、俺は空中を駆け出す。
意識は歯車に、視線はゴーレムの赤黒い存在に向ける。
距離を測り、体を捻り、大きく振りかぶった。
この一撃に全てを乗せる!!
「うぅらぁぁぁああっ《一刀両断》っっ!!」
俺の頭皮から次々と毛が抜ける気配がするが、気にしねぇ!!
回転する刃がゴーレムの体を捉えると、強い振動が腕に伝わってくる。握った柄を手放さないよう手に、腕に、体に力を込め続けた。
絶対に緩めねぇ。
負けてたまるか、こちとら晩飯がかかってるんだよ!!
昼を食い損ねた恨み、とくと味わいやがれ!!
歯車に意識を集中させて、全身に力を込めた。
血が沸騰しそうになる。体の節々から悲鳴が上がる。腕が弾け飛びそうだ。
それでも、こいつは離さねぇ。
皆の援護を受けながら、ここで決めなきゃ――――かっこ悪いだろっ!!
「うぅぅおおぉぉぉりゃぁぁあああっ!!」
集約された一撃は、ゴーレムの巨体を切り崩していき――――蠢く赤黒いところまで到達する。だが、それが突然飛び出してきやがった!
棘だらけのダイヤモンドをまとった状態で、真っ正面からくる。
思わずニヤけてしまう。すかさずチェーンソーを手放し、背負った一刀を抜き出す。息を深く吐き吸い込む。一刀を上段に構える。
「《一刀両断》っっ!!」
そいつが接触する前に最後を降り下ろす。
キィィィンッッ!!
綺麗に両断されたそれが、俺の両側をすり抜けていった。その瞬間、ゴーレムの魔力は綺麗に消え去る。
俺たちの勝利だ。
これで帰れるだろう。
待っていろ、マリー。
自然と顔が綻んでいくのを実感する。




