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41話 日帰りで首都を守る

 マリーは目を見開いて固まっていた。

 うん、嫌だとか思われていたらどうしようか。その時は流浪のハゲにでもなってみよう。あ、でも時々でいいから泊まらせて下さい。


「その言葉に偽りはないか?」


 うおっ、お母さんが顔近づけてきた。怖くてちびってしまいそうだが、ここは引くわけにはいかないな。


「もちろんだ」

「なら、目的地まで送ってやろう。一瞬で着くぞ」

「本当か!」


 マジかよ、やったぜ!


 お母さんが伏せると俺は跳躍スキルで高く跳んだ。降り立った場所は背中。俺が四人乗っても余裕の大きさだ。そして合図もなしに、お母さんは翼をはためかせて宙に浮く。


 絶対今日中には帰って来てやる、日帰りだ。

 あっ、昼飯食べ損ねた。

 クッソ!!


「マリー!!」

「は、はい!!っ」

「晩飯作って待っていてくれ!!」


 次第に離れていって、マリーの姿が小さくなる。こちらを見上げているその顔に、口元に両手を当てた。


「とっておきの作って待ってます! 待ってますから!!」


 その言葉を聞き終わる頃には、姿が見えなくなるほど空に高く舞い上がった。急上昇をしているのに俺の体には全く負荷がない。お母さんの背の後ろに浮かぶ魔法陣がなんらかの補助をしてくれているのだろう。


「さて、久々にやるとするか。グラン、目的地に着くまで何もするな」

「分かった」


 名前を呼んでくれた、だと? 俺、認められたのか……めちゃくちゃ感動した。


 お母さんが鼻息を鳴らすと、ある一点を見つめる。

 一体何をするんだ。見守っていると、その先にいくつもの魔法陣が現れた。色も形も大きさもバラバラな魔法陣が、一直線に並んでいる。


「これは?」

「魔法陣の極意、というものだ。大丈夫だろうが、一応掴まっていろ。行くぞ!」


 翼をはためかせ魔法陣に突入していく。魔法陣を次々と突き抜けると、周りの景色が変わる。景色が急速に流れていった。まるで、ダイブした時のようだ。


「これが魔法?」

「失われた転移魔法を自己流に再現したまでよ。もう着く」


 マジかよ……お母さんって何者なんだ。しかも、もう着くって。深淵の大樹森から首都までSクラスオーパーツで移動しても二日はかかるんだぞ!


 突然、流れていた景色が晴れた。翼が再び動き、視界が上下に揺れ動く。眼下を見下ろせば山や森、草原や川が見えた。遠くに目を凝らしてみてみると、首都の外壁が小さく見える。


「ほう、あれが目的じゃないか?」


 お母さんが旋回すると、見えた。草原に様々な色を反射する、透明に輝く巨体だ。確認した瞬間、体の奥から怒りが再燃する。

 こいつのせいで、俺は昼飯を食い損ねたのか。速攻で終わらせて、晩飯までには帰ってやるからな!


「アイテムバック、いつものくれ」


 腰にくくりつけたアイテムバックに手を突っ込むと、まずは大剣の一刀を渡される。次に魔力通信ネックレスだ。これであのゴーレムの周辺にいるはずの団長と連絡を取ろう。


「おい、グラン。我が一撃を加えて援護してやろう」

「それは助かる!」

「周囲にいるのはお前の同胞だろう。避難をさせろ。いつもよりも衝撃が強い」


 げっ、あれよりも強いのか。お母さんの一撃があれば速攻で片がつきそうなんだが。まぁ、そこまでしてくれる雰囲気ではないな。


 俺は通信機に魔力を流した。この距離なら届くだろう。

 返答はすぐやってくる。


『……グランか!? 伝書を飛ばしてから一日も経ってな』

「すまない、団長。急いで伝えたいことある」

『分かった、聞こう』

「空から広範囲に衝撃が拡散する魔法を放つ。五百メートルほど離れて、防御シールドを張ってくれ」

『……分かった。少し時間をくれ』


 通信が切れた。うし、少し準備運動でもするか。ガチの実戦は久しぶりだな。でも、体が鈍っている訳じゃない。むしろ滾っているほうだ。


 時間にして三十分ぐらいだろうか、ネックレスに通信が入る。


『レイだ。こちらはいつでも大丈夫だ』

「分かった。あ、すまない……魔法発動後に空から飛び降りて一撃加える予定だ。補助魔法を頼む」

『……馬鹿が! 要件は一度に言え!』


 ブツン、と通信が途絶えてしまった。ま、団長なら上手くやってくれるだろう。さて、一働きするか!


「魔法を頼む」

「この一撃、とくと目に焼きつけるが良い」


 瞬間、お母さんの体から今まで感じた事のない高密度の魔力を感じた。その強大さに冷や汗が噴き出て、少しだけ体が震える。その魔力がゴーレムの頭上に集中しているようだ。身を乗り出して確認した。

 ゴーレムの頭上には、十を超える魔法陣が等間隔に並んで出現している。まるで移動の時のようだ。


「これも失われた魔法の一つを再現したものだ。その昔、巨大な大陸を二つに割ったとされる神の御業だ」


 えっ、そんな魔法使ってこの大陸割れたりしないのか?


「縮小版だから気にするな」


 見透かされていたか。……まぁ、お母さんなら大丈夫、だよな。


 強力な魔力の波動がもう一か所、感じられた。強い光が放出されて、次第に収縮していく。お母さんの両手の中で生成された、一つの火系の魔力球。かなりの魔力が込められて、何が起こるか想像できず、肝が冷える。


 その魔力球が魔法陣に向かって放たれた。魔力球は光を放ちながら、魔法陣に向かって降下していく。

 しばらくは変化が見られない。だが、一つの魔法陣が光り出すと状況は一変した。下に向かって順々に他の魔法陣も光り出し――――強烈な一つの光線がゴーレムに落ちた。


 強い耳鳴りの後、響き渡る轟音。

 空気が震動して強風が吹き荒れる。

 空にある雲さえ消し去ってしまった。


「ふん、少し外したか。おい、グランの番だぞ」

「ったく、まだ余波があるじゃねぇか」


 あー、俺の勘は外れてなかったみたいだな。やっぱりこのドラゴンは怖い、逆らわなくて正解だ。


「じゃ、行ってくる。帰りも頼むぜ」


 俺はお母さんの背中を飛び降りた。まだ強風が吹き荒れる中、通信ネックレスに魔力を流し、俺の存在を知らしめる。親指ぐらいの大きさだったゴーレムは次第に大きく見え始めた。一刀を頭上に掲げたまま、俺は落ちていく。


『グラン、補助魔法いくぞ!!』


 待ってました!!

 俺の魔力を感知して、地上から様々な補助魔法が放たれる。それらは体を包み込み、力が漲っていく。

 こればかりやっていたから、体にガタがきたんだよな。だが今は気力も体も万端だ。


「《スキル全開放》」


 今まで鍛えてきたスキルを全て発動する。余計なものまで発動しちまうが、これが一番手っ取り早い。さらに俺の体に力が漲り、一刀を握り締める手に力を込めた。


 眼下にはひび割れたゴーレムが一体。

 俺は息を吸い、腕に力を込めた。

 決めろ、この一撃で終わらせる!!


「《一刀両断》っっ!! うおぉりゃぁぁぁっ!!」


 脳天めがけて渾身の一撃を振り下ろす。

 が、ゴーレムの脳天が横にずれやがった。


 ――――くそっ、もう修正がきかねぇ!!


 渾身の一刀はゴーレムの頭を素通りして、肩に振り下ろされた。

 全力を乗せた一撃。硬い鉱石がひび割れ、くだけ散っていく。

 身体中が軋み、悲鳴を上げる。


 絶対に力を緩めるものかっ!!


「ああぁぁぁああぁぁぁっっ!!」


 一刀はゴーレムの体を止まることなく駆け抜け――――体半分を両断する。

 まだ衝撃波の余波が周囲に吹き荒れる中、補助を受けた俺は難なく地面に降り立った。


「どうだっ!?」


 防御魔法で守られている中、ゴーレムを見上げた。

 肩から真っ二つに両断された体がある。その片方に不気味な赤黒い存在を見た。それは鼓動し、ひときは大きく蠢きだした。真っ二つに割れた体が再びくっつき始めやがる。鉱石なんてことは関係ねぇな。


 あれが再生の元凶か。


 だが良く見ると驚異的な再生能力ではない。ゴーレムの体に感じるお母さんの魔力。きっとそれが再生の邪魔をしているのだろう。しかも今の状態じゃ、ろくに動けもしないはずだ。


 追い討ちをかける、絶好の機会だ!


「始祖の吸血鬼を倒した創造スキルの真骨頂、見せてやるっ!!」


 落武者ハゲになった原因だがな!

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