2話 あんたも転生者で元ガチ悪役令嬢!?
ソファーを挟んで対峙する俺たち。
クッソ、なんだよ。俺の頭がそんなに汚ねぇーのかよ! 落武者スタイルだし、ハゲたところに生き残ってる毛があるから汚く見えてしまうかもしれない。
でも、こいつらは残ってくれた大切な相棒たちなんだよ。こいつらのこと、嫌ってくれるな。
「あっあにょっ!!」
っつ、デカい声の上に噛んでるし。耳痛ぇっ。突然どうしたんだ?
「ししし、失礼っしましたっ……」
いやあの、謝ることじゃねぇよ。俺の頭を見て悲鳴を上げたことの謝罪なら、なんだか傷つくけどな!
「ももっもう何年、と人と接してこここにゃかったのでぇぇ、お、おど……驚いてしまいました」
「……何年、とは?」
「あの、その……せ、せん……千年、以上になります……」
「せん、ねん……?」
ソファーが喋る。いや、正確にはソファーの後ろに隠れた女性が話してるんだが。いかん、話に集中しなくては。しかし、千年も生きてるってどういうことだ?
「お、驚かれるのも……ち、仕方ありません。信じられません、かもしれませんが……私は、その……転生を繰り返している身です」
「……転生者?」
「前回がエルフ。その前は……と、とある国で公爵令嬢として、いきっ生きてました。しし信じて、もらえませんよね……」
嘘だろ。あの神、俺以外にも転生させてたのかよ。
ど、動揺するな。良くある話だ、自分以外にも転生者がいるって話は。それどころか、お互いに殺し合う転生者もいるって小説で読んだ。そう考えると、はじめにお互いの秘密を共有できたことは素晴らしい。
姿は見えないだろうが、感謝の気持ちで頭を下げる。
「正直に話してくれて感謝する。実は俺も中二病……ごほん。あの神に転生させられた者だ」
「っ!? で、ではあなたも私と同じ……何か重い罪を背負って転生させられたのですか!?」
えっ、罪って何?
んん~、可笑しい。なんか話の流れが思ってたんと違う。あごひげをいじりながら考えるが、さっぱり分からん。
「あーっと、すまないが教えてもらえないか。重い罪とはなんだ?」
あれ、空気が重くなったような。な、なんだよ。このソファー、圧がすげぇ。強すぎて息苦しくなるんだが。
「……い、以前の私は王位継承者の婚約者。あの……その立場に驕り、自制心を喪失、しました。自分を律することを忘れた……我儘で傲慢な過去。身分の低い者、気に入らない相手。その当時、私は……私は……弱者を虐げることを喜び、に感じていました」
「そ、それは……」
たどたどしい口調が少しずつ、滑らかになっていった。声もはっきりと、大きく聞こえてくる。が、内容がクッソ重たい。
「それだけではなく、ご降臨された救済の聖女様に……汚い言葉で罵り。下級の貴族を使っての嫌がらせ、浮浪者を使って……襲わせたこともありました」
「……そう、なのか」
「わ、私の非道な行いが王位継承者の耳に入りました。他に犯した数々の悪事も暴かれ、私は……処刑されたのです」
ガ、ガチの悪役令嬢なのか。いやいやいや、本当に居るんだなこういうヤツ。
えぇっと、なんていうかこう……本当は悪い人じゃないんだけど、周りの見方が悪かったせいで悪役にされたってヤツじゃない。でも、今の雰囲気じゃそんな面影ないが……改心、したのか?
「ですが、それを見ていた神がいました」
あ、はい。
「……あの神のことか?」
「はい。神は私に言いました、生きて償えと。前世ではエルフ。ずっと一人で生きていき、今世もそうなるはず……でした。ですが神のきまぐれか、あなたと出会う機会を下さいました」
……なんだか重い、すごく重い感じだ。どうしよう、俺は何か求められてるんだろうか。求めているのは俺のほうなんだけどなぁ……ハゲ的に。
「あ、あの……」
「…………なんだ?」
「なぜ、神はあなたに力を授けず私に授けたのかは、分かりません。ですが、きっとお互いに意味があることと思います」
あ、あの神がそんな思慮深いことを!? ……そ、そうなのかなぁ。そんなことないと思うぞ~。全然、そんなことないよ~。ただ意地悪なだけだぞ~。
「わ、私があなたのハゲを治します」
はっきりとした口調には強い意思のようなものが感じられた。とてもありがたい言葉だ。だが、なんだろうこの気持ち。生まれて初めて知ったような辛さだ。自分で茶化しながら言う時、面と向かって言われる時のこの差。
はぁぁぁっ、辛い。あ、でもありがとう。一刻も早く治してください。
「な、なので……代わりに、お願いしたいことが」
……なるほど、そうきたか。神から授かった力だが、女性のものだ。しかし、魔女のお願いか。後ろめたいことは断ることにして、条件とやらを聞いてみよう。
「条件次第だが、聞こう」
あっ! 頭に残った毛が気になるのでむしり取る、って言われませんよーに!!
「ここ今世でっ、人が住む町でっ、暮らしたいとおもっ……思ってます!」
――――んん?
なんか可笑しな返答がきたぞ。人が住む町で暮らすか……どういうことだ?
「……別にいいんじゃないか?」
「えっと、あの私は……せ、千年以上を一人で暮らしてきました。そのせいか、あの、そっそのせいで人の視線や……触れることに酷く臆病になってしまったので。なので、その……こっ怖くって」
あー、分かるわぁ。長期休みの後とか人と会うの面倒くさいし、閉じこもってたいよなぁ。人の視線とかはまぁ気になるし、触れることはハードル高いが……会話できてるじゃねぇか。
「普通に話しているじゃないか。俺の協力なしでも大丈夫じゃないか?」
「そ、そんなことありません! ソファーの後ろで隠れないと会話できないのが証拠です!!」
確かに、俺の視界ではソファーがしゃべっているように見える。あれからずっとソファーと話している気分になって、ちょっと寂しい。
「……普通に会話できているじゃないか」
「それは私が毎日動物とか……草とか花とか石とかミイラとかに話しかける、れっ練習をしているからであってっ」
あ、俺そういうの弱い。辛くなってちょっと涙出る。って、ミイラってさっきのだよな。え、しゅ……趣味なの? やだなにそれこわい。さす魔女。
「こっ今世では人と触れ合おう。そう思い続けて、二十四歳になってしまいました。で、でも諦めたくありませんっ」
おっと、二十四歳でしたか。自分としては丁度いい年齢……って、何をいうかこのハゲ! だが、この展開は断れない流れになるのかなぁ。
ソファーの奥からひょこりと金髪の頭だけが現れる。プルプルと震えて頭は言った。
「よ、よろしければ……私と……しばらくここで暮らしてくださいませんか!? 一緒に生活すれば、町で住む度胸もつくと思うのです!」
なんだとっ。二十四歳、金髪美女と一つ屋根の下……だと!?
直球のお願いに今度は俺が震えた。俺の中の下心が膨らんで、喉がごくりと鳴る。だが、ここで俺の理性が警鐘を鳴らす。
相手は魔女だ、しかもあんなミイラまで家にあるんだぞ。絶対に研究とか実験されるに決まっている。俺はまだ死にたくない。
だが、しかし、だがっ!!
じっとしていられず、立ち上がった。
「こっ……これも何かの縁。協力させていただこう」
しまった、少し声が震えてしまった。吊るされた餌と美女に俺は弱い。それにむさ苦しい傭兵団の生活から少しでも離れられる。これは美味しい。
彼女との同居生活かと考えると……ハゲて良かったかも。と、神に感謝…はしたくないから髪に感謝しよう。