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ふたりぐらし!~ハゲたおっさんとボッチな魔女のスローライフ~  作者: 黄色いインコ
第一章 おっさんと魔女は仲良くなりたい
13/43

13話 あらためまして

 皿の上で(さじ)がカランと音を立てて(おど)った。

 清々しい音で俺の心に満足感が広がる。思わず口角が上がってしまった。


「完食、ありがとな」

「すごく美味しかったです。すいません、途中で泣き出してしまって」


 声を上げて泣き切ったせいか、(かす)れている声が痛ましい。普段はあんなに絶叫して平気だったのに、不思議だな。目元が赤くなっていて心配だが、大丈夫だろ。見ているの俺しかいないし。


 あれ、俺……ハーマリーを見ているぞ。


「グランさんに、みっともない姿……見られちゃいましたね」


 あれ、ハーマリーがこちらを見上げているぞ。大分、可愛い。


「でも、お陰でスッキリしました。ありがとうございます、グランさん」


 あれ、可愛すぎてハゲそう。……ん?


「ハゲてたわ!!」

「きゃっ!? どどど、どうしたんですか!?」


 どうしたもこうしたもない! なんだっそのっ、潤んだ目の上目遣い! 不安げに見つめると、男心をくすぐられるし……それに、それにぃっ!


 胸がデカい!!


 しまった、思わぬ絶景……うおっほんっ、伏兵だ。今までローブを羽織っていたから気づかなかったから余計に……くるっ。俺のハゲにビンビンくるっ。脂汗がにじみ出るほどに!!


「えっと、あの……あっ」


 ハゲのテカリを見られてしまった!! くっそ、また布団を被っ……らない?


「す、すいません。はぁぁっ、すぅぅ」


 その息を吸わせてください。


「まだ、目線は合わせられませんが……もう姿を隠さないようにします」


 戸惑いながらも向けられた表情。視線を外す目の動き、う~ん……いい。

 いや、待て。今度からハーマリーの姿を見ながら生活するのか? まじか、俺は耐えられるのか? じ、自覚したら急に緊張して、頭のテカりが気になるっ!!


「えっと、不束(ふつつか)ものですが……よろしくお願いします」

「あ、あぁっ! お、おらの方こそっ……って、俺のほうこそ! あーそのーなんだっ、居候の身だが世話を頼む!」


 何言ってるんだおら! じゃねぇ、ハゲ! 違うだろ、俺!

 あ~あ~あ~~っ、やっちまったよ……おい!


「ふふっ」


 ……ちぇ、笑ってやがる。


「あははっ、いつもとは……逆ですねっ」

「むっ」


 クッソ、指摘が鋭すぎる。ちょっと悔しいが、まぁいい許そう。笑った顔を見れたしな、なんか努力が報われた気がしてホッとしたわ。

 こんな風に笑えるんだな、うん良かった。


「ふわぁっ」


 あくび出ちまった。慣れないことして、いつも以上に疲労の蓄積が半端ない。これだから年は取りたくねぇなぁ。


「お疲れ様です。一休みしていきますか?」

「あー、そうするか。ハーマリーもゆっくり休んでくれよな」


 んーーっ、背伸びは気持ちいいな。とりあえず、外の芝生で寝転がって昼寝でもするかー。

 部屋を出ていこうとすると、声がかかる。


「あ、あの……よろしければソファーで休まれて行きませんか?」


 それ、なんてギャルゲー?


「い、いやいや。ハーマリーが落ち着かんだろ。こんなハゲたおっさんと一緒なんて」

「……今は人の気配が傍にいたほうが、安心して寝れる気がしまして。それにグランさんなら……」


 それ、なんてエロゲー?


 こここっ、これはいかんな。厳重注意をしなければ。


「んんっ、なら……寝かせてもらおう」

「はいっ」


 はぁぁっ、いかんいかん。こんなラブチャンスは滅多に訪れない。ここは甘んじるべきだな、うん。一緒の部屋で寝れるなんて、そんなチャンスは転がってはいない。チャンスは掴み取るものだ、うん。


 ソファーに寝転がると体が柔らかく包まれて、とても心地いい。すぐにまぶたが重くなる。俺、結構疲れてたんだな。


「おやすみなさい、グランさん」

「あぁ、おやすみ。ハーマリー」


 澄んだ声が余韻(よいん)となって耳に残る。心地良さに自然と口角が上がり、静かに目を閉じた。昼寝には早い時間。疲れたら寝る。自由気ままで優しさに包まれた生活に、心にあった黒い何かが溶けだして消えていくようだ。


 意識が徐々に遠ざかり、それすらどうでもよくなる。

 今はただ、この微睡(まどろ)みに沈みたい。


 ◇


 ゆらゆらと微かな振動を感じる。あぁ、なんか気持ちい。まだ寝て――――


「グランさん、グランさん」


 違う、俺の名はハゲ……ちげーし!!


「起きて下さい。もう夕方ですよ」


 ゆさゆさとソファーが揺れる。まだ寝たい……ん、夕方? まじか!


「うっ、夕方?」


 ……あー、天井真っ赤に染まってるわ。しまった、つい寝ちまった。えーっと、ハーマリーは……可愛っ。ソファーの裏から顔だけだしてこっち見てる、可愛っ。そこそこ距離近くて、おじさん意識しちゃう。


「ふふっ、ぐっすり眠ってましたね」

「……寝顔を見たな? 高くつくぞ」

「美味しい夕食作りますよ」


 そう言われると、弱いな。くぅ~~、あー良く寝た。背伸びをしても、首を動かしても、肩を回してもゴリゴリいわねぇな。なんか、ここにきてから体の調子がいいわ。唯一頭皮だけは絶不調……そこね、そこ。そこが一番大事。


 立ち上がって寝台側の窓を見ると、強い西日が射しこんでいた。


「うおっ、眩しっ」

「きゃっ」


 きゃっ? 手で顔面隠して一体どうした……あれ? 窓に背を向けているのに、顏辺りに光りが――――ハゲが反射してた!? 


「すすすっ、すまん!!」

「こちらこそ、なんかすいません!!」


 それ傷つくヤツ!!

 あーー、恥ずかしい。頭で光を反射して迷惑かけるのが、こんなにも辛い事だったなんて知らなかった。気分よく起きたのに、気落ちしてしまう。


「夕食頑張って作りますね!」

「ん、体は大丈夫なのか? 病み上がりだし、休んでいたほうが」


 いやいや、そう簡単に治るわけがない。病み上がりに無理するのは流石に心配だな。

 腕組をして唸っていると、扉が開く音がする。視線を向けると、ハーマリーが微笑んでいた。


「自家製のお薬飲んだので大丈夫です。それに、心地よく寝れましたしね。グランさんがいてくれたお陰ですよ」


 くぅぅ、笑顔が眩しい! ハゲで反射できない眩しさだ!


 急に親しくなると俺の心臓がもたないぞ。はぁー、だがいつの間に薬なんて飲んだんだ? いや、この台詞は信用できないヤツだね。病み上がりで大丈夫っていうヤツに限って、本当は駄目なパターンだ。


「……俺も手伝う。いいか、絶対に無理するなよ!」

「ふふっ、ありがとうございます」


 控えめに笑いながらハーマリーは先に部屋を出る。慌てて早歩きで部屋を出ると、廊下のすぐ先でハーマリーが扉を開けようとした。

 しかし、ここで俺はあることを思い出してしまう。


「あ、ちょっと待っ――――」


 止めようとしたが、間に合わなかった。ハーマリーは扉を開け、一歩踏み出した形で動きが止まる。青い目を丸くし、口はちょっと半開きだ。


 あーあーあー、本当にすまねぇ。

 恐る恐る近寄り、パンッと音を立てて手を合わせる。


「すまん! 片づけるの忘れてた!」


 許して欲しい、この通り!!

 しばらく無言が続いて、俺の中でどんどん不安が膨らんでいく。あ~、怒られる!


「……許しません」


 なん、だと?

 呆けた横顔がこちらを向く。しょうがない、と少し呆れている様子だった。

 あ、俺……怒られてない。助かったぁ。


「一緒に……片づけてくださいね」

「それは勿論だ! 全力を尽くす!」


 ちょっとだけ口元が笑っているが、気にしない。この惨状は二人じゃないとクリアできなさそうだしな。居候の分際で余計な手間かけさせたなぁ。これは一つゴマをすろう。


「あらためてよろしく頼む」


 ゴマのすりかたって、こんなのでいいのか? 目力も入れてみよう、むむむっ。


「……はい、こちらこそ!」


 弾けるような笑顔に少しだけ鼓動が高鳴った。それにちょっと罪悪感も薄れたし、ありがたい。これから少しずつ距離を縮めて、ハゲを治してもらえるよう努力しよう。


「二人して寝坊したので、夜は長いですね。お酒でも飲みますか?」

「病み上がりで大丈夫なのか?」

「魔女の薬は凄いんですよ。あ、月光浴しながら夜空を眺めて、ゆっくり過ごしましょう」

「いいか、少しだけだからな! 病み上がりなんだからな!」


 くぅ、夜が楽しみになってきた! ドリアードたちもいねぇし、ゆっくりできるのがいいよな。長い夜になりそうだ。


 惨状広がるキッチンに小躍りしながら入り、音を立てて扉を閉めた。

第一章完結


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― 新着の感想 ―
[良い点] 四十歳と二十四歳のピュアなやり取りが、コミカルでいて微笑ましく、なんとも不思議な感情になりました。 ドリアードの中にいた辛辣(?)な言葉遣いの子が面白かったです。 [一言] 続きも、読ませ…
[良い点] 第一章読みきってしまいました。 かなり良い感じになりましたね。 やっぱり看病から仲良くなるのは王道ですよね!(違 美女と落ち武者のおっさんだけど、なんとなくこの二人にはそのまま幸せになって…
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