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ふたりぐらし!~ハゲたおっさんとボッチな魔女のスローライフ~  作者: 黄色いインコ
第一章 おっさんと魔女は仲良くなりたい
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11話 記憶の中の愛情

 居候部屋の扉の前で、俺は身動きが取れなくなっている。


 あの後、水を持ってくると逃げるように部屋を飛び出した。が、非常に戻りにくい。

 あぁ、どうしてあの時に脊髄反射で動いてしまったのか! はぁぁ、悩ましくてハゲが進むわ。誰か励ましてほし…ハゲマシテ? ハゲ増し……やかましいわ!


「――――あの、入っても大丈夫ですよ」

「うおっ!?」


 な、なにぃぃ! 気づかれてただとぉぉ!?

 どどっ、どうしてだ。クッソ、また悩み過ぎてハゲてしまうわ。えぇい、ままよ! ……ゆっくり扉を開けて~、ぐぬぬぅ耐えろハゲ!


「……気づいて、いたのか」

「ご、ごめんなさい。その……唸り声がずっと聞こえていた、もので」


 俺の頭、恥ずかしさでハゲ散る確定。

 き、気まずい。今も布団被って姿を隠しているし。相手の反応が見えないってすごく不安だよなぁ。はぁ、嫌われなきゃいいけど。


 とりあえず近づいて、寝台の傍にあるサイドテーブルに持ってきたものを置く。その後はそそくさとソファーに座った、チキンハートな俺。

 そして、沈黙の時間。少し苦しげに呼吸をするハーマリーの息遣いだけが聞こえる。


 何か喋ったほうがいいのか?

 だが、体調が悪いんだったら休ませたほうが。だったら俺がここにいる必要はないわけで。しかし、突然体調が悪化した時に気づかなかったら嫌だ。


「ありがとうございます」


 そうそう、感謝の言葉なん……ん?


「その……嬉しいです。こういう状況でも、近くにいてくれて……すごく安心します」

「……嫌、じゃないのか?」

「と、とんでもない! あの、私のほうこそ……嫌な思いばかりさせてしまって。とても申し訳なくて……」


 そ、そっか~~はぁ~~良かった。またハゲ散らかさなくてすんだな。寝具臭いとか言われなくて、本当に良かった。


 特にマクラな。毎日綺麗に清潔にしていても、頭皮の匂いはすさまじい。特注の自然派な石鹸使ってるから、きっつい加齢臭じゃないはずだ。

 そうであって欲しい、そうじゃないと困る、そうだったらいいなぁ。いやまぁ、安心したらちょっとお腹減った。


「あの……少し、お話聞いてくれますか?」


 体調は大丈夫なのか? まぁ、話しかけてくれるのは素直に嬉しいぞ。


「あぁ、聞こう」

「……前々世の私のことです」


 あ、重いヤツくる。


「小さい頃から容姿のことで……周りの人に(さげす)まれてきました。髪や顔、体の部分から声に至るまで。人前で姿を晒すことに……極度の恐怖を感じて、生きてきました」

「ひでぇ話だ。本当に蔑まれるほど酷かったのか?」

「……神が償いの一環として、その時の容姿に近い形で転生してきました。今の姿と遜色はないです」


 はぁぁっ!? 償いは置いとくとしても、俺の中では女神級の感じだったぞ。どこをどう捉え間違えて、蔑んだのか分からん。公爵家って言ってたから、そりゃいい血筋の美形ぞろいだと思うが……俺には分からん世界だ。


「だから、怖かった。グランさんに、蔑まされるかも……って思うと」

「そんなことはない」

「……ですが」


 俺が蔑むわけない! 逆に俺がハゲ頭を蔑まれるぞ! ったく、これはキツく言ってやらんとな。


「前々世の連中が可笑しい、あぁ絶対に可笑しい。俺はハーマリーを見た時、すごく美人で興奮した」

「えっ……あ、その……ありがとう、ございます」

「えっ……あ、はい。その……」


 はぁぁあああっ、またやっちまったわぁ!

 考えもなしにそんなこと言ったらダメだろー! ほらほらほらー、微妙な空気が流れてるんですが!


「あー、そのー、あれだ。気にすることじゃない」

「はい……」


 えぇぇっ、なんか落ち込んでいる空気が流れているんだが。これはどうすればいいんだ?

 と、とにかくだ……話を戻そう。


「あーごほん。話しを中断させてすまなかった。話してくれないか?」


 俺はもう口を挟まないぞ。絶対に挟まないぞ。って、何も喋らないのか?


「……ふふっ、もう大丈夫です」

「だが……」

「私が人目を避ける理由を伝えられただけで、満足しちゃいました」


 しちゃいましたって、そう簡単に言われてもなぁ。ん~~、あ~~。


「他にないのか? なんだ、その……話しておきたいことは」

「グランさんは何かありますか? もし、普通に接することができたら……やりたいこととか」


 な、なんだその質問は。はぁ、やりたいこと? ヤリたい……いや違う、俺にとっては今はとにかくアレだな。


「ハゲを治して欲しい」

「それは一番にですね。他にはありますか?」

「あー、顏をつき合わせて飯を食べたい」

「それも大事ですね。次は?」

「えっと、散歩とか」

「手をつなげたらいいですね」


 手ねぇ、手……手ぇぇっ!?


「色んな時間帯に歩くの気持ちいいですよね。他は?」


 えっと、なにこれ恥ずかしい。


「ま、待て待て。どうしたんだ。こんな答え聞いてどうする」

「……目標にして、頑張りたいです。グランさんと一緒なら、大丈夫のような気がします」


 後ろを振り向きたくなった。後頭部の頭皮で感じる確かな視線。優しくて温かみのある、慈愛に満ちた……心地いいもの。


 今、どんな表情をしているのだろうか。目や口はどんな形をしているのだろうか。どうして俺は、背を向けて話しかけているのか……酷く疑問に思えた。


 少しの緊張が走り、ごくりと喉が鳴る。


「――――なぁ、そっちに」

 キュルルルルゥゥッ


 ――――あ?


「ごごごっ、ごめんなさいっ!!」


 っっくぅぅっ、ぬぅぅっ!!


「い、いやいや。そういやぁ、昼飯まだだったな……」

「うぅっ」


 こっちが唸りたいっ。くっ、また恥ずかしさでハゲてしまう。ふぅ、落ち着け。相手は病人で、俺はハゲだ。よし、いつも通りだ。


「ちょっと待ってろ、今出してやる」


 作る時間が惜しいからな、ちゃっちゃと腹一杯にしてやるからな。


「ふぅ、《ダイブ》」


 目を閉じて唱えると、真っ白な視界が広がる。様々な過去の映像が急激な速度で移り変わる。深く潜れば疲労感がハンパない。早く現れろ~、看病の記憶。


 っとと、それそれ。

 中学生の時、インフルエンザで寝込んでいた記憶だ。


 あればやばかったな、死ぬかと思った。そのまま死んで転生でもしないかなって中二病的なこと思ってたなぁ。

 おぉ、マイマザー母さん。いやいやお久しぶり。……あーあーあー、まーた言い争いしてるわ、アホか。あん時は反抗期真っ盛りでとりあえず突っかかってたっけなぁ。


 ほらほら、怒鳴られてやんの。素直に聞いときゃ良かったのにな。……おかゆだけは食えって、強引に置いて出て行ったな。そうそう、捻くれて食べるもんかって言ったわ。本当に馬鹿だった。


 ――――今だったら分かる。ありがとう。


「《キャッチ》」


 おかゆを掴んで唱えた。意識が体に戻り、また唱える。


「《エンボディ》」


 手のひらで感じる固く熱い器の感触。鼻先をくすぐる米と卵の胃に優しい匂い。ふと、目を開けるとあの時のままのおかゆが姿を現す。


 熱いな……


 上から見下ろしていると湯気が顔にかかる。不思議と雑念が消えてしまった。


「グランさん?」

「あぁ、今傍に行くから」


 そうだ、食べさせないと。

 自然と立ち上がり、足を進めた。視線を向ければ、ハーマリーは布団の中。そうだった、まだ見られるの苦手だったな。ゆっくりと近づいて寝台の隣で止まる。


 ――――俺の時と同じ。


 体調を崩して寝込んでいる。あの時と同じなのに、違和感があった。


「あっ」


 おかゆを見下ろして気づく。


 これはハーマリーを思って作られたものじゃない。


 あぁ、そうかそうだよな。うん、これは違う。これはハーマリーには食べさせられないものだ。

 添えられた匙を持つと、息を吹きかけて冷ます。


「……あむっ、あふあふぅ、むぐっ」


 あつっ、あちちち。だが、んまい。今食うと全然違う。うまい、まじでうまい。


「グラン、さん?」

「あふっ、ちょっ……ちょっと待て」


 あと三口、二口、一口……うん、食った!

 よし、いっちょやるか!


「すまん、出すもの間違えた」

「えっと、何か食べ物を出してくれたのですか?」

「あぁ、だがこれじゃなかった」


 うん、これをハーマリーに食わせなくてよかった。


「今から作ってくるから、待ってろ」


 ハゲによりをかけて作ってやるぜ。

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