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冒険者協力会会長二号さん

 ユグナシード帝国帝都イーリアスに冒険者協力会の本部がある。

 皇帝の好意で八公二候体制に移行し、使われなくなった宮殿の一翼を借りている。


 ローデンの机に報告書がパッと現れる。


「普通に渡せよ、ライゾウ」


 天井に文句を言って封を切る。


「あー、そうきたか、二号さん、ファリア国でも協力会支部が襲われたって」


「被害は?」


 発着バルコニーで仔犬を放り投げて遊んでやっている二号さんと呼ばれた男が訊いた。

 二号さんはスラリとした中肉中背より、やや細目の体格をしている。筋肉隆々の大男のローデンとは対称的だ。


「反女王派が襲撃してきて、待ち構えていた冒険者が撃退したそうだ。冒険者側が六十人、反女王派が二百人、冒険者側に加勢した女王派が十人ほど死者を出したらしい」


 ローデンは顔をしかめた。これで冒険者側が女王派と組めばファリア国で内戦が起こるだろう。

 協力会は内戦や国家間の争いに関わらないよう冒険者に要請しているのに、これでは事の発端が協力会になってしまう。


「裏庭地方全てで協力会や冒険者に喧嘩を売ってきた訳ですね。大人しくしていれば付け上がりやがって、いいでしょう、買ってやります!」


 二号さんの端正な顔立ちを忌々しげに歪めた。

 執務室に入った二号さんは天井に向かって命令した。


「ライゾウ、コンコースに待機させている教導パーティー連合にラサに向かうよう伝えて下さい、それとキーエンをここに」


「承知」


 天井裏から返事がした。


「二号さん、どう決着させるつもり?」


 ローデンは水を注いだコップを二号さんに渡し自分の分も注いだ。

 内戦や戦争に関わらないのが協力会の基本方針だ。それなのに二号さんは喧嘩を買うと言った。どうするのか当然気になる。


「裏庭地方を統一してやります!」


 冒険者協力会会長二号さんは噛み潰すように言った。


 ローデンは驚いて飲みかけの水を吹き出した。


「統一は無茶苦茶だよ二号さん、戦争をする気かい。国家に干渉しないのが協力会だろ」


「どこに書いてあります?」


「へ」


「どこに書いてあります、そんなこと。それは先代が決めた努力目標みたいなものでしょ、これだけ舐められたら冒険者や協力会と揉めている裏庭地方以外の国も真似してきますよ」


 権力者側の報酬の未払いや、協力会が扱う強力な武具を売れといったことで、幾つかの国と揉めていた。


「わたしはレブクス国のフレンジ王には期待していたのです。彼なら裏庭地方を統一できました。長い目で見ればその方が裏庭地方にとって良かったはずです。それをあのどら息子がフレンジ王を暗殺して統一を遠のかせただけでなくわたしに喧嘩を売りやがって、こうなったらわたしが統一するしかないじゃないですか」


 理屈になってないことを言って、二号さんは肩をすくめ、ソファーに身体を投げ出した。

 仔犬がソファーに登り二号さんの膝を枕にする。


「ちゃんと考えたのか?」


ローデンに二号さんは頷く。


「計画書も作りました。キーエンが来たら渡します」


 こう言うことで嘘やはったりは言わないから計画はあるのだろう。


「陛下が怒っても責任とれよ」


 二号さんは明後日の方向を見る。


「おい!そこ一番大事なとこ!」


 ローデンは声を荒げる。


「俺は嫌だぜ、陛下にズボンをひっぺがされて公衆の面前で鞭で叩かれるの」


 冒険者協力会の資金は皇帝の私有財産を運用して賄っている。正当な理由があればどれほど損失を出そうと皇帝は怒らない。しかし、魔軍が発生した訳でもないのに国相手に戦争をして資金を減らしたとき皇帝がどうでるか前例がないので分からなかった。

 もし、横領だと咎められたら尻叩きの刑が待っている。おっさんには辛い刑だ。


 ノックの音がして眼鏡をかけた着飾った男性が入ってきた。財務部のキーエンだ。


「二号さん、やる気になったんだって」


 キーエンは満面の笑みだ。

 戦争は儲かる。商人としては完全に制御できる戦争は笑いが止まらないだろう。


「ええ、大王にわたしはなります!」


 二号さんは胸を張る。やる気が甦ってきたようだ。

ローデンに会長用の机から二つの書類を取り出させ、ローデンとキーエンにひとつずつ渡す。


「戦略計画書です。必要な物資の目録も書いてありますから用意して持って来て下さい。それと錬金術師全員強制でお願いします」


最後に強権が発動された。


キーエンは目録にざっと目を通し、

「これだけの物資、どうやって裏庭地方に運びます?」と尋ねた。


 裏庭地方は陸の孤島だ。万年雪を戴く世界の氷壁クルース山脈に囲まれている。南側だけは海だが海岸線は二千メートルの絶壁になっている。

 コンコース男爵領から大トンネルを使えば楽にファリア国に出られるが大量の物資の輸送は無理だ。

 だから、キーエンの疑問ももっともだった。


 二号さんは不敵に笑う。


「カンサーデン城を動かします。協力会の力を世界に見せつけましょう」


「ウエルバの諸公が文句を言ってくるぞ」


 諦め口調でローデンが言った。


「ウエルバ諸公もうちと揉めてますからカンサーデン公爵家を潤して困らせましょう」


「動かしていいんですか!」


 キーエンの瞳が光る。


「あれで商売ができればどれだけ儲けられるか分かりませんよ」


 すでにキーエンの頭の中には儲けの算段が具体的に浮かんでいることだろう。


「カンサーデン城ではあまり儲けては駄目です。商人まで敵に回しますから」


 カンサーデン城の積載量は商船と比べても比較にならない積載量を誇る。それが空を飛ぶのだから本気で運用すると既存の交易を破壊しかねない。


「それは残念」


 キーエンはあっさり諦める。

 世界一のお金持ちの財布から無限に融資を受けられる冒険者協力会は商人から少なからず敵視されている。協力会に対する嫌がらせならいいが冒険者の妨害をされては協力会として本末転倒になるからだ。


「キーエン、その計画書を読めば分かりますが、わたしは裏庭地方をじゃぶじゃぶにして人心を買うつもりです。あなたが到着するまでにファリア国を降伏させます」


 カンサーデン城の運用は厳格に決められている。相手国の許可なく着陸できない。

 二号さんは許可は取れないだろうから自分が王になって許可を出す気だった。


「ファリア国は五日も掛からないでしょう」


 ローデンもキーエンも否定しない。

 二号さんが本気になれば訳もないと確信しているからだ。


「ところで、丸麦と二頭のおちびちゃんはどこにいったんでしょう?」


 二号さんは膝の上のおちびちゃんを撫でながらキョロキョロ探す。


「翼犬を連れていくのか?」とローデン。


「裏庭地方は元々翼犬の縄張りですから丁度いいでしょ。翼犬は大義名分にもなりますし、わたしはウエンリッド派ではないですがね」


 裏庭地方の裏庭は翼犬にとってそれくらい小さい土地だという意味だった。表の庭はユグナシード帝国である。七十倍の面積がある。


「二号さんこっから直接、誰を連れていくの?」


 ローデンが訊く。


「わたしとあなたとホウ老師、それとジェムーロですね。ジェムーロはどこです?」


爺ばっかじゃねーかとローデンは洩らす。

 二号さんも訊く。

 キーエンが、そういえばと思い出した。


「大導師は丸麦に咥えられてどこかに連れていかれてました。ここに来るとき見かけましたよ」


「ボールにされてるな、何時もの事だ」とローデン。


 協力会最高の魔術士ジェムーロは枯れ木のように痩せている小柄な爺だ。よく、翼犬のオモチャにされる。翼犬の子供は放り投げられるのが好きだが、成犬は逆で人を鼻ですくい上げるのが好きなのだった。


「戦争はやることが多くて大変ですね。キーエン、爺表を渡しときます乗せて来て下さい。頼みましたよ」


 二号さんは仔犬を連れて帝都に出掛けた。






















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