7.
そんな父王の思惑など、どこ吹く風でルルドールは着々とアビゲイルとの距離を縮めていた。やはり護衛をクリストファーにしたことに間違いはなかった。彼は侯爵家の次男坊だか、幼い頃から騎士に憧れ、侯爵である父が止めるのも聞かず、さっさと家を出て騎士団に入ってしまったのだった。
歳はルルドールの5歳上の21歳、ラドハルト国では珍しい黒髪を短く刈り上げ、同じく漆黒の瞳は狙った獲物は逃がさない獣のように光っている。日焼けした端正な顔、筋肉質で逞しい大きな体はルルドールなど軽く持ち上げることが出来るだろう。身長は195cmあり、ルルドールが天使のように美しい男なら、クリストファーは悪魔のような魅力をもつ男だった。
『ちっ!僕だって後5年も経てばクリストファーみたいに大きくなるのに……』現在、身長171.56…cmのルルドールはこの親友にささやかなジェラシーを感じていた。いや、しかし待てよ。確かにクリストファーはカッコいいかもしれないけれど、とても残念な性癖を持っている。ルルドールは前に一度、勇気を出して聞いてみた事があった。
『ねぇー、クリストファー。』
目をキラキラさせながら、おずおずとルルドールが尋ねる。
『な、なんだ?』
何故か心持ち頬を染めつつクリストファーが応えた。
『クリストファーってさ、えーと……そのぉ~』
『だから、なんだよ?……な、何がいいたいんだよ』
何故か心持ち息をハアハアさせつつクリストファーが応えた。
『うん、思いきって言っちゃうよ。クリストファーってホモなの?』
『!!……………………う、うぉぉぉー!!ち、違う!俺はホモじゃなーーーい!!』
クリストファーは顔を真っ赤にしてさっきより激しく息をハアハアさせながら否定した。
『え?違うの~!?』
『あ、当たり前だぁー』
『なんだ違うのか~。だってさー、初めて会った時、クリストファーてば僕を見て「ごくん」って唾のんだよね。僕、食べられちゃうのかと思ったよー。』
笑いながら無邪気に話すこのいたずら妖精をどうしてくれようかとクリストファーは思った。ああ、本当に食べてしまいたい!!しかし、彼は騎士団で培った精神力でこの劣情をなんとか抑え込むことに成功したのだった。