6.
それからの6年、ルルドールは多くの事を吸収した。その間に女王が誰かの物にならないか、いつも気ばかり焦ってはいたが、6年間欠かすことなく続いている女王との文にはそれらしいことは全く書かれてはいなかった。……それなのに。父王から聞かされたニュースにルルドールは怒りを感じた。
『アビー様は僕に何も言ってこなかった。何故?彼女にとって僕の存在はその程度のものだという事なのか?アビー様に逢ってどうしても確かめたい!』
どうにか父王と兄達を味方につけることに成功した。とりあえず、さっさと司祭に成人証明の書類を提出して、イール国に向けて出国しなければ。ルルドールは頭の中で綿密に計画を練り始めた。そう、決行するのは7日後の満月の日にしよう。伴の者は一人でいい。そうだ、クリストファーに頼もう。きっと彼ならルルドールの『お願い』を断らないだろう。いや、断れないであろう事ははなから承知の上だった。
ルルドールはこの6年の間に学問、武術の他、人間の心理を重点的に学んだ。もう、10歳の時のように黙って誘拐されたりはしない。彼は自分の魅力を最大限に利用して相手を意のままに動かす術も身に付けた。『アビー様はこんな僕を受け入れてくれるかな?だって、純粋なままのルルだと、永遠に貴女を手に入れられないじゃないか。たとえどんな手を使ってでも貴女は僕の物にするよ。』ルルドールの瞳が妖しく輝いた。
そして、とうとう満月の日が来た。あの手この手でひき止めてくる父王や兄達をうるうるビームで軽く撃破し、案の定、護衛を引き受けてくれたクリストファーを従えてルルドールは旅立っていった。ここからアビゲイルのいる城まで馬で駆けて3日といったところか。今回の『婿とり話』を聞いてすぐに先方には知らせを出した。相手からの返事が来るまでにはまだまだ時間がかかるだろうと思っていた矢先、許可書類と共に、入国に必要な通行手形が早馬で届けられた。まるで前から用意してあったような迅速さで、これにはさすがのルルドールも驚きを隠せなかった。
ところで何故ルルドールの願いをあれだけ溺愛していた父王や兄達がいとも簡単に受け入れたかというと、それには訳があった。ラドハルト国は比較的安定した国で農業、工業、商業はずば抜けて発展しているが、国防の要である軍事力に欠けている。このままだと遅かれ早かれ他国の侵略を受け、国民に多大な犠牲を強いることになるだろう。
そこに今回の『婿とり話』だ。イール国の規模は国レベルでいうと、中堅どころといったところだが、軍事力はトップレベルで大国にもひけをとらない。しかもお互いの国交は良好でまたとない縁組みなのだ。
しかし言葉は悪いが、26歳の女王に16歳の王子を婿入りさせるとなると、世間一般の常識に基づいて考えれば、それは『政略結婚』と呼ばれるものになるだろう。『そう思いたくば、思えばいい。』と、当のルルドールは全く気にしてはいなかったが、彼は自国のシンボルと言っても過言ではない、『妖精王子』なのである。国民の不安感を煽る婚姻は避けなければならない。父としては息子の幸せを第一に考え、力になる約束をしたが、国王としては頭が痛い事態ではあった。