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102.

こんなに間が開き、申し訳ありません!よろしくお願いいたします。

 宰相ロックフォードの問題もすっかり片付いてルルドールはただひたすら皆がアムダルグ帝国から帰国するのを待ちわびていた。まあ、その間もアビゲイルの自室に入り浸り、あんな事やこんな事を彼女にシていたわけなのだが……


 やっと帰ってくるとの知らせが早馬で届けられると、彼は急いでクラーロ邸に使いを出した。父王がいる、城からすぐのランド公爵別邸にも同じように知らせを出し、準備万端彼らの帰りを待ち構えていたのだった。


「まだかなー?もう遅いなあ」


「ルルドール、少しは落ち着いて待てないのか!」


 のんびり茶を楽しみながら彼らの帰国を待っている父王が呆れる。


「えー。そんな事言ってもさー。ああっもうダメだ。ちょっと見てくるっ!!」


「え?ルル、待ちなさい!」


 ルルドールはリカルドの制止も聞かず部屋を飛び出していった。そして門の前で今か今かと彼らの帰りを待っていたのだった。暫くすると馬の蹄の音が聞こえ、門番の兵士たちによって大きな門が開かれた。


「あっ!やっと帰ってきた!!ソルシアン、アニス、おかえりー!!」


 満面の笑みで出迎えたルルドールだが、すぐに違和感を覚え、立ち止まる。


「…ん?あれ?なんだか行きと馬車が違うんだけど……しかも物凄くゴージャスな……」


 驚く妖精王子近くで馬車が止まった。御者がステップを用意し、扉が開けられる。ルルドールは中からソルシアンとアニスが降りてくるのを確認すると同時に、扉に彫られている模様にまた驚く。


「え!?アムダルグの紋章?……も、もしかして……ああっ!?」  


……そして続いて降りてくる人物を確認するや、一目散に城の中に戻っていった。


「なんだルルドールのやつ、かなり驚いていたな。父上の姿を見て城の中に逃げて行ったぞ。くくく……。いつも私をおちょくっている報いを受けろ。ふん、いい気味だ!」


 そう。最後に現れたのはアムダルグ帝国の皇帝アムド2世、その人だったのだ。ソルシアンが満足そうにほくそえむのを見て、アニスは複雑な思いだった。


『ルル様の気持ち、よく解るわ。私だってまだ信じられない気分だもの。まさか、皇帝陛下自らお越しになられるとはルル様だって思いもしなかったでしょう。ああ、お父様やお兄様たちの驚く顔が目に浮かぶわ……』


 二人の結婚を許してもらったまではよかったが、ジェイルの件は彼女の予想に反する重大事件だった。


「この事は他言無用だからね。」


 ジェイルの告白を聞いた後、ソルシアンはアニスにそっと念をおした。


「 も、勿論よ!こんな事、口が裂けても言えないわ。これはもう、アムダルグの信用にも関わる国家機密事項ですもの。うっかり洩らしでもしたら私たち、両国に抹殺されてしまうわ!」


 アニスは身震いをしながらソルシアンに頷いてみせた。そしてルルドールはといえば…


「ア、アビー!大変だー!!」


「ルル、どうした?ソルシアン達がもう帰って来たのか?」


 ノックもなく皆の待つ部屋に飛び込んだルルドールを見て女王が尋ねた。


「そ、それどころじゃないよ!」


「え?何かあったのか?」


「も、もしや娘、アニスに良からぬ事でも起きたのではありませんかっ!?」


 突然駆け込んできた妖精王子の慌てぶりに、不安に駆られたザックが茶の席から立ち上がった。


「え?アニス?妹に何かあったのですかっ!?」 


 父に続きダン、カイル、サンダートの三人の兄たちも一斉に立ち上がり、ルルドールに詰め寄る。


「ち、違うんだ!アニスは元気そうだったよ!!」


「えっ?じゃあジェイルに何かあったのか?」


 今度はリカルドが席から立ち上がった。


「ジェイル兄上?……あれ?馬車に乗っていたかな?」 


 ルルドールは首を捻りながらしばし考えた。が、すぐにはっと我に返り、叫び声をあげた。


「そうじゃない!陛下が、陛下が……」


「ルル、大丈夫か!?ラドハルト国王陛下ならここにいらっしゃるじゃないか?」


 クリストファーが呆れ顔で妖精王子を嗜めた。


「だ、だからそうじゃなくて、ソルシアンがアムダルグ皇帝陛下を連れて来ちゃったんだー!!」  


「「「「ええっ!?」」」」


 この部屋にいた人間全員が飛び上がりそうな勢いで椅子から立ち上がった。


「た、大変だ!!」


 リカルドが慌て出す。


「だから大変だって言ったじゃない!!」


 ルルドールはやっと話が通じホッとしたのもつかの間に皆を急き立てた。


「早く出迎えに向かわないと!アビー、父上、さあ、早くっ!!」


「あ、ああ!行くぞ、クリストファー!」


「は、はいっ!!」


 皆、一様に慌て部屋を飛び出し城内のエントランスめがけて走り出す。そしてルルドール達がその場に到着した時、大臣達とこれからの予定の打ち合わせを終えた宰相ロックフォードが外の異変に気付き、機転を利かして皇帝を出迎えているところだった。


 重厚な扉が開かれ、アムド2世を先頭にソルシアン、アニスが続く。


「こ、皇帝陛下!ようこそおいでくださいました。お目にかかれ恐悦至極でございます!」


「うむ。久しいな、ロックフォード。息災であってなにより」


「はっ!恐れ入ります。」


 宰相は何事もなく、それが予め予定されていた訪問者のごとく、ごく自然に隣国の皇帝を出迎えた。そしてその挨拶が終わる頃、ようやくルルドール達も出迎えの列に合流する事が出来たのだった。


「アムダルグ皇帝陛下!!」


「おお、イールの女王、急な訪問で驚かせてしまったようだな。……それにラドハルト国王、いや、リカルド。」


「……アムド、本当に久しいな。変わりなかったか?」


「ああ、この通りだ。」


 二人が面と向かって話し合うのは前ラドハルト王妃の葬儀以来、実に二十数年振りの事だった。


「そのようだな。本当にそなたは若い頃とあまり変わらぬな……で、かような急の訪問にはどんな重要な案件が関わっているのだ?」


 いきなりのリカルドの直球に和やかだった出迎えの場が一気に凍りついた。しかし、ラドハルト国王はその空気を気にもせず、訪問者の答えを待っていた。


「ふっ。久しぶりだというに、相変わらず遠慮のない奴だ!」


 呆れながらもアムド二世はこの無礼な男の問いに素直に応じた。


「私がこの国を訪れた理由(わけ)は、二つの用件を片付ける目的があるからだ。…まず一つ目は」


 そこで言葉を切った皇帝は皆より遥か後ろに控えているクラーロ一族の面々に目をやった。


「ザック・クラーロ、こちらに参られよ。」


 突然隣国の皇帝に自分の名を呼ばれ、ザックは驚きはしたもののその理由は分かっていた。そう、それこそがこの赤毛の皇帝をこの場所に誘った二つの内の一つ目の用件なのだろう。


 元々アムダルグの第二皇子、ソルシアンが娘アニスと共に祖国に戻ったのはザック本人との約束を果たす為だった。『アムダルグ皇帝に婚姻の許可をとる事』つまり二人の仲を皇帝に認めてもらう事、それをクリア出来てしまったならザックとてもはや反対は出来ない。


『よもや一国の王が平民の娘を娶ろうとしている第二皇子の味方になるはずがない。』ザックは高を括っていた。だが、平民とはいえ莫大な財力を有するクラーロ一族はただの平民とは一線を画している。驕りではなくそれは周知の事実であるからこそ、結婚話を断るにしても他人伝えではなく、わざわざ皇帝自ら出向いてきた事も頷ける。


 ザックは皇帝がこの話を破談にする為に遠路はるばるイール国まで足を運んで来たのだと確信していたのだ。ところが、


「おおザック、この度はそなたのご息女を我が息子ソルシアンの妻に申し受ける事となり、父として礼を言うぞ。なにかと至らぬ息子だが、末長くよろしく頼む。」


 なんと誇り高いアムダルグの皇帝ともあろう男が他国の、それも平民のザックに頭を下げたのだった。


「こ、皇帝陛下。頭をお上げください!こちらこそ、礼儀作法も行き届かぬふつつかな娘ではございますが、どうぞ宜しくお願いいたし……」


 ザックは慌ててアムド2世の側まで駆け寄ると深々と頭を下げた。しかし次の瞬間はっと我に返り、己がつい口走ってしまった言葉を頭の中で反芻する。『ふつつかな娘だが、よろしく』と。


 し、しまった!!が、しかし時既に遅く、恐る恐る後ろを振り向くと、アニスとソルシアンが瞳を輝かせながらザックを見つめていたのだった。


 「お、お父様……」


 アニスが目に嬉し涙を滲ませながら呟いた。震えるその肩を抱きしめソルシアンが寄り添う。


「うっ」


 ザックは自分の失態に頭を抱えた。しかし一度口から出してしまった言葉は元には戻らず、しかもソルシアンはザックの出したミッションを完璧に遂行し、帰国を果たした。もはや彼は二人の仲を認めるしか道は残っていなかった。


「ああ、分かった!私も二人を祝福しよう。おめでとうアニス、幸せになるんだよ。」


「ありがとうございます、義父上!必ず幸せにいたします!!」


 アニスより先にソルシアンが素早く両手でザックの手を握りブンブンと上下させた。


「ちっ!」


 内心では『この若造がっ!』と思ったが、アムド2世の目前で無下な態度も取れず、ザックはされるがままソルシアンの気の済むまで感激を表す儀式に付き合うのだった……


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