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16 鎧とお嬢様の不安

「ぴったりだったわね。すごいわバルト」

「あ?」

 

 屋敷にシュテルが訪れたのは、バルトが思った通り一週間後のことだった。

 いきなり鎧を褒めだしたアリシアに、シュテルは怪訝そうな顔をしている。

 

「何でもないわ。いらっしゃいシュテル……と、あらフェリックスも?」

 シュテルの後ろから、フェリックスが少し眉を下げ困ったような表情で現れた。

 

「久しぶり、でもないか。こんにちはアリシア」

「課題は終わらせたか?」

 フェリックスの挨拶に被せるように確認をとるシュテルにアリシアは全開の笑顔で終わったと伝える。

 

「ありがとうシュテル、とても楽しかったわ! 後で聞きたいことがあるのだけど……」

 弾んだ声でここが難しかった、あそこをもっと知りたいと感想を言うアリシアを見てシュテルは、いつも自分が生徒に行う罰は効果が無かったかと微かに舌打ちするが、魔術式の事を楽しそうに話しているアリシアに若干機嫌をなおした。

 

「あの量を楽しいなんて言うなんて、アリシアはすごいね……僕はギリギリだったよ」

 苦笑するフェリックスにアリシアは、そういえばシュテルを怒らせたと書いてあったが何をしたのだろうか、と思ったがシュテルの前で聞く事ではないだろうと考え違うことを聞いた。

 

「ところでフェリックス、今日は何をしに来たの?」

 

 妙に静かな間がひらいた。聞いてはいけないことだったかとアリシアが話題を変えようとした時、シュテルは、はっとしたような顔をし目的を思い出した。

 

「忘れるとこだった、あんた口止めしたのに言ったろ!」

「ご、ごめんなさい。あまりに唐突に名前が出たものだから対応に迷ってしまって……」

 逆に言えってことなのかしらと思って、と続けたアリシアに、何で余計なところで裏を読むんだとシュテルは頭痛をおぼえたかのように頭を押さえた。

 

「まあまあシュテル、落ち着いて。アリシアは悪気があったわけじゃ無いんだよ」

「てめぇは悪気あったろ。反省無しのようなら課題追加してやるよ」

 穏やかに止めに入ったフェリックスをひと睨みし黙らせると、止めに入った時の笑顔のまま表情を固めて一歩下がった。

 いったいフェリックスはシュテルに何をしたのか気になるが、流石にアリシアは空気を読んだ。

 

「つうか鎧のあんたも、言ってんの聞こえてんだから止めろよな!」

 バルトにまで怒りをぶつけ始めたシュテルを慌てて宥めようとしたアリシアは、ふと違和感に気づく。

 

 バルトが異様に大人しいのだ。

 

 シュテルがいると不機嫌になって不穏な空気を醸し出していたバルトが今日は静かに立っていた。

「あんた、俺が気にくわねぇのはわかるが無視は……」

「待って! シュテル、おかしいわ」

 

 尚も黙っているバルトに不安を感じ、シュテルを止めバルトに触れる。バルトに動きは無い。

 

「バルト……?」

 僅かに間をおいて、ギギ、と軋む音を鳴らしながらゆっくりとアリシアの方を向く。

 しかし、よろけてギシリと硬直すると、また反応が無くなった。アリシアが何回か名前を呼んだが鎧は沈黙したままだ。

 

「フ、フェリックス、シュテル、バルトが……!」

 バルトの様子を見て悪い想像をしたのか、アリシアは血の気の引いた顔で震えている。

 

「落ち着け。別に意識が消えた訳じゃねぇよ」

 シュテルは気持ちを切り替えてバルトを見る。意識が消えている訳ではなく、眠っている状態になっているだけのようだ。

 

「詳しいの? シュテル」

「リビングアーマーとかゴーレムとかは専用の魔術式があるから知ってるだけだ」

 

 


 

 

「フェリックス、シュテル……バルトは?」

「とりあえず大丈夫だよ。安心してアリシア、今すぐどうこうなる訳じゃないみたい」

 バルトが居なくなってしまうのではないか、という不安でいっぱいになっていたアリシアは、その言葉に少しほっとする。

 

「こいつがリビングアーマーになって何年経つ?」

 大体調べ終わったらしいシュテルは、何かを確信しているようにアリシアに聞いた。

 

「この屋敷に来てから百年は確実に経っているけど、細かくは数えていないわ」

「……大分無理してんな」

 こいつ元人間だろ、とシュテルがバルトを示しながら言う。

 

「わかるの? そうらしいわ」

 その頃の事はあまりよく知らないけど、と続けるアリシアは不安そうに眉を下げた。

 

「元人間のリビングアーマーは、魔力を補給出来ても魂自体が消耗していくから、寿命は普通の人間と変わらねぇ筈なんだよ」

 鎧だけがリビングアーマーになったんだったら、魔力がある限り活動する。シュテルはそう言いバルトに視線を向ける。 

 アリシアは普通の人間と変わらない寿命と聞いて、どきりと苦しいくらい心臓が脈打った。それは、もしかして。

 

「此処までもったのが奇跡だ。魔力の相性が良かったのか、こいつ自身の魂が強かったのかわかんねぇけど」

 

 

 

 

 このままだといずれ……と続けているシュテルの言葉がやけ遠く感じた。

 

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