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14 今ある平和

 ゆったりとした時間が流れるお昼頃、いつもより慌てた様子で狼の姿になっているトールが、転がるようにアリシアの前に現れた。

 

「トール? どうしたの?」

「アリシア! 何か森にこわいやつがいる!」 

 子供の姿になり勢いよくアリシアに飛びつきながら言った言葉に目を見開く。

 その言葉を聞いたバルトは『屋敷から出ないように』とアリシアに視線を向けると、直ぐに森の中へ入っていった。

 

 

 しばらくすると、バルトは見知った人物を連れて戻ってきた。

 

 

「あら、シュテルだったの」

「……よぉ」

 鋭い目をした不機嫌そうな表情は僅かに気まずさを滲ませている。トールが言っていた『こわいやつ』とはフェリックスの友人兼先生のシュテルだった。

 

「え、あいつアリシアのしりあいなのか」

 そうっとソファの影から顔を覗かせるトールはシュテルが苦手なようでびくびくと様子を窺っている。

 

「大丈夫よ、トール。見た目は怖いけど中身は優しいわ」

 きっと。と付け加えられた言葉に説得力はないが、手紙のやり取りをしていても会うのは二回目なので仕方ない。

 

「ええ? 本当かなぁ」

 難しい顔で黙り込むトールはやはり苦手らしい。シュテルはそれを聞いて、癖で舌打ちをしそうになったが怖がらせそうなのでこらえる。先程も子狼が森の中で自分を見ていたのだが、目があった瞬間逃げられた。

 

「念のため聞くけれどシュテル、トール……小さい狼に何かした?」

「してねぇ、昔から本能強いヤツには怯えられんだよ」

 そう言うシュテルは苦い経験が思い浮かんだのか顔を顰める。意外にも気にしているようだ。

 バルトは『自分もそうだな』と少しだけ共感した。

 

 そわそわと落ち着かないトールはちらりとシュテルとアリシアを交互に見て悩む。

 しばらく考えこんだ後、

「よし! オレ帰るから! また明日な」

 

 素早くアリシアに挨拶すると子供の姿のまま森の中に走っていった。

 

「あ、トール! ……行っちゃったわ」

 少し寂しそうなアリシアを見て、何となくシュテルは自分が悪いような気分になった。

 

 

 

 

「突然訪ねて悪いな。気になってしょうがねぇからよ」

 魔術式見せてもらおうと思った、とシュテルは今日訪ねた理由を語る。フェリックスと張り合える程の行動力だ。


「魔術式ね、でも本当にすり抜けるだけよ?」

「いいから、ほら。さっさと始めろ。俺は明日、授業あんだよ」

 

 態度の大きいシュテルに呆れつつ、いつも通り魔術式に魔力を込める。

 持っている紙から魔力がするりと抜け落ち空気に溶けた。結果もいつも通りである。

 

「ほら、この通りなの」

 

 それをじっと見ていたシュテルは眉を顰めて魔術式とアリシアを見た。

「おい、何で魔法使ってんだ」 

「え?」

 魔法は加護によって生まれる為、人一つだけ使うことが出来る。魔術と違い魔術式を必要としない。

 例えば『火』の加護を持っていれば『発火』の魔術式が無くても『発火』が使える。

 

 しかし、アリシアは静かに首を振る。

 

「私、魔法なんて使えないわ」

 魔術は勿論だがアリシアは魔法も使えなかった。

 

「使えない、じゃねぇ使ってんだよ」

 いいか、と言ってアリシアが持っていた魔術式を取るとシュテルは説明を始めた。

 

「あんたが使ってんのは魔法だ。既に魔法として出されてる魔力を魔術式に込めようとするから、すり抜ける何て事が起きるんだ」

 魔法として出されてる魔力とは何だろうかとアリシアは首を傾げた。

 

「あんたの魔法が『火』だったら、魔術式を使う時、込める魔力を魔法で『火』に変換するから魔術式が燃える」

「え、でもそれだと魔石に火は込められないわよ」

 魔石に魔力を溜めることはできるアリシアは疑問を呟いた。

「例えだ。あんたのは火じゃなくて、ただの『魔法としての魔力』だから魔術としては使えなくても魔力としてだけなら使える」

「わかるようなわからないような……」

 つまり、魔力のみを使うことが出来れば魔術が使えるのだろうか、アリシアは考えてみるがそもそも魔力と魔法をどう分ければいいかわからない。

 

「別にわからないでいい。ようは魔術使おうとして魔法使ってた間抜けだからな」

「まぬけ……待ってバルト落ち着いて、私は気にしていないわ」

 

 少し落ち込みそうになった瞬間、バルトが殺気を出して動いたので急いで宥めた。シュテルとバルトの相性が悪いのか沸点が低くて困る。

 アリシアのために怒っているのはわかるのだが。

 

 

 

 

 

 

 そろそろ帰ると言うシュテルに、アリシアは気になっていたことを聞いた。

「私の魔法って何なのかしら?」

「さあ、俺の専門じゃねぇし。あ、魔法専門のヤツには聞くなよ」

 後半、表情を厳しくして忠告するシュテルは、不思議そうな顔をしたアリシアを見ると補足をしてくれた。

 

「魔法の専門てことは、加護の専門と近いって事だ。あんたの加護だと本気で危険だからなあの連中。関わんな」

 アリシアを心配してくれているらしいシュテルの言葉に心が温かくなる。

 

「ええ、ありがとうシュテル。優しいのね」

「おいやめろ俺は優しくない、フェリックスに言うなよ」

 お礼を言うとシュテルは焦ったように目をつり上げて釘をさした。

 

 

 

 何故フェリックスの名前が出たのかわからないアリシアは、きょとんとしたまま勢いよく帰っていくシュテルを見送ると側にいるバルトに相談する。

 

 「言えということなのかしら?」

 

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