12 長い時間の記録
窓から入る暖かな日差しが遮られる程、積み重ねた本がテーブルに置かれている。
それはアリシアがいつも読んでいる魔術式の研究書ではなく、史実をもとにした物語や世界の歴史書、その中でも『不老不死』に関して書いてあるものだった。
『不老不死』の加護を持っていたものは、アリシアを除き記録が残っている歴史五千年の中で、確定しているのもが三人、不確定が一人いる。
しかし、今の時代にはアリシア一人しかいない。
『不老不死』はその名の通り老いず死なないはずなのだが、四人とも事故でも病気でもなく原因不明で静かに亡くなっていた。
一人目は『不老不死』と言えば、この人が思い浮かぶ程有名な女戦士。千二百年生きて安心したような表情で。
二人目は大人しいが嫉妬深い、と言う恋に生きた女性。八百年生きて夫となった人の後を追うように。
三人目は生真面目で清廉な騎士の男性。九百年生きて穏やかに微笑みながら。
四人目は不確定だったが、村から出た事が無い村娘。百年と少し生きて子供たちに囲まれて。
全員、若いままで怪我もすぐに治っていたらしいが、四人目だけ極端に年数が違ったので『不老不死』かどうかの真偽が分かれている。
「千年は、果てしないわね」
一冊、神話に近いほど古い歴史の物語を読み終わり、ぱたんと本を閉じる。この本には『不老不死』だと言われている人物の中で一番有名な女性の話が書かれていた。
五千年前、悪魔と戦争をしている時に最前線で戦っていた不死身の女戦士、彼女はとてつもない精神力で千年戦い続けた。
戦争が終わったその後は穏やかに暮らしたらしいが、最期は一人で静かに逝ったとも、結婚していて夫が看取ったとも、戦争中に恋仲になった悪魔が迎えに来たとも言われている。
遥か昔の話であるため本当のところはわかっていない。
「バルト、『不老不死』って本当に『不老不死』の加護なのかしら」
アリシアの意図の読めない問いにバルトは『何故そう思うのか』とアリシアの方を向く。
「『不老不死』の加護を持っていると伝えられている人物は皆、口をそろえて自分はそんなものは持っていないと言ったそうなの」
一見自分の身を守る為に誤魔化しているように聞こえるが、女戦士は明らかに隠そうと思っていないので誤魔化す意味がない。
「それに私も……『不老不死』と言われてはいるけど、それが自分の加護だとは思えないのよ」
自分が不老不死の状態だとは理解しているけど、と続けるアリシアは悩むように違う本を開いた。
加護は年を重ねるにつれて、自分が持っているものを理解できるようになる。それがアリシアには無かった。
周りが『不老不死』と言うので『不老不死』の加護かと思うようにしているのだが、違うという違和感が消えない。
「何か見落としていることがあるかと本も読み返してみたけど、『不老不死』としか書いていないのよね」
怪我をしてもすぐ治り、病気をせず、ずっと若いまま。ただ、記録が真実なら最期は皆愛する者と幸せだった、という事がわかる。
ぱららとページを流して、本を閉じた。
バルトはアリシアが自分に話しかけている訳ではないと察すると、積み上げた本が倒れる前に読み終えたものを本棚へ戻す。
アリシアはそれを視界に入れながら、そういえばバルトの加護って何なのかしらと考えた。
聞いた事は無いし、リビングアーマーになっても残っているものなのか、わからない。
使ってる様子は見えないので、あったとしても目に写らないものなのだろうと結論付ける。
バルトで一番不思議なのは、どこからともなくアップルパイを出してくる事だが、流石に『アップルパイをどこでも出せる』加護、なんてものは無い。
あったら自分が欲しい、と何だか思考が纏まらなくなってきたようなので、アリシアは考えを打ち切って休憩にするとバルトに言った。
「アップルパイが食べたいわ」
いつも通りのお願いだが、バルトは先程まで本の整理をしていたので、今日はもしかしたら目の前に用意されるまでに時間がかかるかもしれない……と思っていたら、既に切り分けられたアップルパイと砂糖が二つ置かれている紅茶が、テーブルに並んでいたので目を見開く。
「やっぱりバルトは『アップルパイをどこでも出せる』加護でもあるのかしら……?」
ぽちゃぽちゃと砂糖を二つ紅茶に落としながらアリシアが呟いた言葉に、バルトは不思議そうにしながらも一応首を振って否定した。




