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11 少しだけ賑やかな最近

 澄み渡る空気が満ちている爽やかな朝。大きな白い鳥は気持ちよさそうに日を浴びている。

 アリシアは昨日から読んでいる、枚数の多い手紙を最後の一枚まで読み終わると、不思議そうな顔をして首を傾げた。

 

「バルト、シュテルに私が魔術式を使えない理由を相談してみたのだけど」

 朝食を片付け終わったバルトはアリシアの言葉を聞いて何かわかったのだろうかと近寄る。

 

「魔石に魔力を溜めることができるのに、魔術式は魔力がすり抜ける、というのは器用不器用の問題じゃないと書いてあるの」

 

 シュテルの手紙には、確かに不器用で魔術式が使えない者が居るとあるが、それは魔術式が壊れるくらい魔力を込めたり足りなかったりと魔力の調節が上手くいかないだけで、すり抜けることにはならないようだ。

 

 バルトはそれを聞いて、少しだけアリシアがそれを上回る不器用だということはないのかと思ったが、表に出さないようにつとめた。

 

「わかるわ、バルト。私も自分がそれよりも不器用だからかもと思ったもの」

 バレている。元々話さないバルトと会話をしている時点でとっさに思ったことをアリシアに隠すのは困難だろう。

 バルトは申し訳なさそうに話の続きを促す。

 

「その不器用な人物、シュテルの教え子なのだけど、花壇の花を水やりで押し流して泥だらけにするくらいの不器用らしいわ」

 それはどこかで聞いた話、というかアリシアが昔やった事と同じだった。バルトとアリシアは顔を合わせて同じような人もいるものだと苦笑する。

 

「だから不器用が理由じゃない可能性が高くなったのよ。何が原因なのかしら」

 首を傾げて考えるが魔術式の謎は解けそうもなかった。

 

 

 

 

 バルトが淹れた紅茶を飲みながら庭に視線を向けると、ふわふわした灰色の影が横切る。

「アリシアーー!」

「あら、トールいらっしゃい」

 にこにこと輝く笑顔で庭をかけて来るのは屋敷に遊びに来たあの子狼だ。『トール』という名前は何回か通った後で、自分は名前が無いので付けてほしいと頼まれたアリシアが名付けたのだ。

 

 何の捻りも無く昔読んだ物語の勇者の名前だったのたが、子狼は喜んで『トール』という名前を貰い、アリシアがその名を呼たびに嬉しそうに笑う。

 

「んん? なんだこの鳥」

 そのトールは手紙の返事を書くまで待機している鳥に興味があるらしく、顔を近づけながら目をきらきらさせて見ている。

 トールが狼だからか鳥は居心地が悪そうだ。心配しなくてもトールは肉食ではないので鳥は食べないのだが。

 

「この子は手紙を運んでくれるのよ。今は休んでいるところだから静かにね」

「てがみをはこぶ……わかった! ゆっくり休めよ」

 

 手紙に関してはわかっていなさそうではあるが、そっと鳥から離れてアリシアの側に来ると、隣にいたバルトにちょっかいを出し始めた。

 何故だかトールはバルトがお気に入りのようだ。

 

「オバケ! なにしてんの」

 バルトは足元に纏わりつくトールを、蹴らないように避けながら無視していたが、面倒くさそうに持ち上げるとアリシアの向かいに座らせて、目の前にアップルパイ……ではなくそれに使った残りのリンゴを置く。

 

「あ、リンゴ」

 トールが食べるものは植物と水と石である為、お腹が空いてアリシアの魔石を狙わないように、バルトはトールが来る時いつもおやつを出す。もしかして餌付けでバルトに懐いたのかもしれない、とおとなしくリンゴを頬ばるトールを見てアリシアは思った。

 

 

 

 

 食べ終わるとすぐ幸せそうに眠ったトールをソファに移動させて、手紙の返事を書き始めようとペンを持つ。

 バルトは紅茶のおかわりを出そうか迷ったが、手紙に紅茶を零すことが容易に想像できたのでティーワゴンを下げた。

 

「バルト、最近賑やかね」

 アリシアは独り言のようにバルトに話しかける。

 

 バルトはカシャリと頭をアリシアの方に向かせながら、最近とはここ数ヶ月のことなのかそれとも数十年のことを言っているのか考え、おそらく両方なのだろうなと結論をだした。

 

 静かな森に囲まれたこの屋敷にアリシアが来たのは百年以上も前。

 森の外に出れるようになったのは五十年くらい前、『家族』以外のものと関わり始めたのは二十年前、それも本屋の店主と『家族』の婚約者しかいない。

 アリシアにとって『家族』以外と話をして関係が続くと言うのはここ百年でも珍しいことだった。

 

 バルトはアリシアと親しいものが出来るたび、嬉しい反面どうしようもない寂しさを感じる。

 

 それは自分が蚊帳の外のような感情を覚えるためでもあるが、一番の理由はアリシアが楽しそうにするたび、ふとした瞬間遠い目をすることが増えるからだ。

 それを自分にも隠そうとするのが寂しい。

 

「でも私、楽しいからとても寂しいの」 

 アリシアが自分の考えていた事と同じような事を言い、バルトは思っていたことがバレていたのかと慌てる。

 そんなバルトの動揺に気づいているのかいないのか、アリシアは俯き泣きそうなほど震えた声で続きを言った。

 

「バルトはずっと私の隣にいてね」

 

 それはアリシアの一番の望みであり純粋な祈りだったが、先の長すぎる未来を想像できない不安がその望みに影を落としている。

 バルトはアリシアの不安を少しでも和らげるように頷いて約束をした。

 

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