アウトローに学ぶ異界.6
ずらりとならぶ兵士たち。彼らは各々が酒や食い物を貪りながらショーの開園を今か今かと待ち侘びている。
「よし、カーマ。貴様を奴隷として扱っていたあのヤヌ族共に復讐をする機会を与えてやろう」
俺は見世物の猿のようだ。フーガ少尉が猿回しで裏から操り、俺に役割を演じさせる。
行われる演目は『野蛮人の最後』。
大陸を蹂躙していた野蛮人ヤヌ族を、大陸を渡ってきた文明人ブリュータス帝国軍人が征服するという内容である。
演劇なんて凝った物ではない。ただの殺戮ショーだ。
俺はフーガ少尉が俺に対する興味とその人柄だけであれだけ良くしてくれたものだと勘違いをしていた。
着飾って芸を仕込んでとペットに対するそれでもまだマシだと思っていたのだが……。
その実、彼は同じく"野蛮人"のカテゴリの中に入る俺に、目の前で身動き一つとれないヤヌ族を撃ち殺させることで、同じ大陸人同士で滑稽にも殺しあう様を部下に見せつけ、彼らのタイタニア人として生まれた優越感を満たす。他にも俺に芸を仕込むフーガ少尉のその手腕を部下に評価させるなどなど思惑があったようなのである。
「さっさと始めてくれ少尉殿ー!」
ショーの犠牲者たちは地面に打ち込まれた杭に縛られ、鎖で動けなくされた手には槍と盾を模した木の棒などを握らされている。生け捕りにされたヤヌ族たちは俺にさえ憎しみの目を向けてきた。
当然だろう。敵と同じ服を着て、同じ武器を持つ。それが自分たちと同じような人種であるのだ。
少尉は、いきり立つ部下たちに満足そうに手を上げ、「これより劇を行う!」と声高らかに叫んだ。
「カーマ。出来るな?」
小声で俺に語りかけてくる。
その眼は俺を試すようでもあった。確かに俺はヤヌ族の物ではない文字、日本語を契約書に書いた。しかし、縛り付けられたヤヌ族を見る限り、このような狩猟民族的な種族には先祖霊や大地神からのお告げを聞けるようなシャーマンなどがいるのが常である。タイタニア人のような民族にもいることが多いのは分かっている。宗教などなんてのはどこにでも生まれるものだ。
しかし、この世界では話が違う。タイタイニア人は現に魔法という奇跡を行うことが出来る。であるならば、同じような手段を持たないかと他民族に対して警戒を持つのは当然のように思えた。
つまり、フーガは未だに俺をヤヌ族ではないかと疑ってもいるのだ。知恵があったり、魔力に過敏なのはシャーマン系列の部族内の特殊な立場ということで納得しているのだろう。
これは俺を疑っているがゆえに行われる実験なのであろう。真実ヤヌ族であるのか、またはヤヌ族以外の部族なのか、それを確かめるための。
「カーマ、構えろ」
俺は自分の置かれた立場と、これから殺人を犯さなければならないことに対する抵抗感を表情に出さないように限りなく努力をした。だが、妙に頬の筋肉は引き攣ってしまったかもしれない。
「フーガ少尉、さっきの的より小さいから撃ち漏らすかもしれません……」
「そうはならない。外したら"それまで"だからな……」
囁く言葉の中でその部分を妙に強調する。それは俺の心臓の鼓動を異様に早くさせ、また俺の頭の中を何も考えられないくらい真っ白にするには有効であった。
俺は言われる通り構え、照準を縛り上げられたヤヌ族の男一人に合わせる。ヤヌ族の男はこれから何が起こるのかも理解していないのかもしれない。
俺の目をまっすぐ睨み付け、猿轡で口をきけなくされているのに何かを伝えようと唸っていた。
「カーマ、トリガーを絞れ。ゆっくりでいい。外すなよ」
そして、俺による生身の人間への初めての射撃が行われた。