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アウトローに学ぶ異界生存戦略  作者:
1章 異世界で奴隷から神官、そして魔の者への扉を開く
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アウトローに学ぶ異界.5

 俺の目の前には古めかしい銃火器が置いてある。

「これは魔法が使えない者にも扱える火器だ。簡単に使い方を教えてやる。ここがトリガーと言って、この筒の穴からの鉛の玉、弾丸の発射を促す。すると火縄が動きここに火をつける。この内部に詰め込んだ火薬が炸裂し――」

 フーガ少尉は俺に銃を使わせたいらしい。

「――まあ、難しいことは分かるまい。私も知らん。しかし使い方さえ分かれば原始的なスリングショットなどと同じように武器として貴様にも扱えるだろうからな」

 まずは弾丸、装薬を詰めろと命じられ、その通りに銃に弾を込め始める。


 フーガの腰には西部劇などで見るようなリボルビングの拳銃が下げられている。

 俺に渡された長い銃の方が大きいから強いなどと見えがちだが、こちらは火縄で点火する物でフーガ少尉の物は現代でもヤクザの抗争などで警察が証拠として押さえるような撃鉄で撃ちだすものだ。物が違い過ぎる。

 やはり俺に渡された者はかなりの旧式のようだ。

 フーガは俺の手際がいいと褒めながらもその手は腰の拳銃へと伸びたまま固定されていく。


 彼は俺に対して細心の注意を払いながらもその興味心から何かとやらせてみたいのだろう。もしもの時のために準備もしてある。ここで俺が彼の腰のリボルバーに興味を示し、知識を持っていようものなら何かと厄介そうだ。

 それに今、フーガに敵意を示したところであの化け物大男に勝てる算段も、この大地で生き延びる手段も持たない。

 俺が銃を映画などの見よう見まねで的に撃つと見事に命中。大きな的の真ん中を狙ったつもりだが、大きく右下に逸れた。肩は衝撃で少々痺れたが俺でもやれば出来るものだ。

「カーマ!よくやった!」

 フーガはひとしきり俺を持ち上げるように褒めた。


―――――

―――


 その後、俺は少尉に連れられテント内で服を着替えさせられた。あまり着心地がいい服でもなかったが、もはや鎖すら外されただのアクセサリーとなった手枷と足枷を露出して身分を分かりやすくしている以外は昨日の下っ端たちの服と大して変わらぬ物である。

「ほらこれを見てみろ。ヤヌ族の下ではみすぼらしいだけの貴様が見違えるようだ」


 俺はその時初めて自分の姿を見た。

「どうした?」

 フーガ少尉の言葉が頭に入らない。あまり出来がいいとは言えない手鏡を覗き込むと見知らぬ人物の顔が映っていた。

 たしかに俺に似ている。だがいつも自分の顔を見る機会がある俺には些細な差でも大きな違和感となった。

 前の俺よりは明らかに精強な骨格に無駄な脂肪のない引き締まった表情、そして人を惹きつけるような魅力を持った眼光。

 いや、これはナルシズムではない。現代的な自堕落な生活を送っていた俺とは全く違う顔を正当に評価したのだ。


 その時初めて自分の手足への違和感も感じ、一瞬立ちくらみがするような、自己同一性が保てないような感覚に陥ったが、今までも意味の分からない現実が押し寄せる事に大してそこまで嗚咽など感情の高鳴りを覚えることはなかったのだ。これも一時のものだろう。

「カーマ。少し休むがいい。さきほどの銃の衝撃が今頃になってきたのだろう。構え方すら教えずに撃たせたからな」

 少尉は俺を気遣う様子で(ペットへのそれであるのだろうが)肩に手をかけ、心配そうな表情を作る。


 そして寝台に寝そべる俺の手枷をテントの支柱と鎖でつなぎ、少尉は仕事へと向かっていったようだ。


 この"仕事"というのはやはり現地の人間に対しての戦闘行為なのだろう。

 はるか遠くから銃声が響くのを聞きながら俺は少尉が帰るまでの間、寝台で考え事をしてしまった。


 不安、焦燥、そして心臓の鼓動が異常に高鳴る。俺はいったいどうなってしまったのだろうか。

 それまでやり過ごしてきた自分の感情に押しつぶされそうになりながらも、俺の緊張の糸が切れた。

 そして睡魔に誘われるがままに瞳を閉じたのであった。

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