アウトローに学ぶ異界生存戦略.24 ネクロパレス巡礼編
ヒルダニアからネクロパレスへは満潮時でなければ徒歩で渡ることができる。
巡礼のためにさらに石畳で舗装し柵を立て、満潮時でも波が高くなければ案外小舟でも渡れるらしい。
冒険者であれ巡礼者であれ、到着したら一夜をヒルダニアで過ごし、早朝にネクロパレスへと向かうのが一番の安全な手段ということだ。これには単純に夜のダンジョンの危険性を説く話だろう。
一本道が続く。
まだ薄暗い中にも関わらず、露天商などが道の端を占領していた。
俺たちと同じように孤島へと向かう武装した一団などが掘り出し物を見つけては交渉をしているようだ。
――費用さえあれば、何かと揃えたいのだが……
手元に金銭などはない。飯を食う金さえなかったので、巡礼者用のヒルダニア支部の寺院で一晩お世話になり、朝は冷めたスープだけ飲んだ。
他のお付きは巡礼など慣れているのだろうが、俺とショーイがあまり長居をするとこれではままならない。
「本来の任務もありますので急ぎましょうか」
そう周りの者に声をかける。頷く面々の中には、ダンジョンに潜るということに対する恐れが見える。
誰も魔法が使えるなんて気配は感じない。
足手まといならば切り捨てるしかないが、ここは使いどころを考えなければ。
「ショーイ神官は足腰に難がありますので、出来ればここに置いておきたいのですが……」
「では私が背負っていきましょうか?」
かなりガタイの良いジョアルの言葉ににっこりと笑顔を貼り付けて「よろしくお願いします」などと返す。
ジョアルは纏っていたローブを脱ぐと引きちぎり、寺院でもらった杖を他の者からも三つ受け取るとせっせと組み合わせて背負子のような物を作った。
寺院の杖には嵌め込み型の凹凸が複数あり、これを組み合わせることで巡礼に脱落した者を共に背負って運んだりもできるのだろう。
「ではどうぞ」
ショーイは戸惑うような挙動をしたが俺からの視線を受け、しぶしぶながら背負われた。
「おっと暴れないでくださいね」
軽く担がれ困惑の視線をこちらに送る。
本来の目的の前にこんなくだらない嫌がらせなどにかまけている時間はないのだ。
「今回はあまり長居する気はないので足早に終わらせましょう」
面倒極まりない嫌がらせだ。これでダンジョンが難攻不落などと言われればさっさと逃げ出すところだ。
斜陽が傾く前にこの巡礼なんてものはクリアしてやる。
日を跨ぐ危険性を考えれば、多少踏破速度を上げるくらい大したリスクではない。
――最短コースを狙え、無駄な時間をつかうな!
ふと嫌な言葉が頭をよぎる。
社会のレールからの脱線を禁じながら、脱線ギリギリの速度で走り抜けろという命令だ。
結局、このような苦く嫌悪するような刷り込みは今の自分の心を支配しているということなのだろうか?
刷り込みや記憶が人間を形成するというのであれば、俺は間違いなく"死に急ぎ"の素質を持っている。
現に今、生死を左右する決断をあっさりと受け入れてしまっている。
奴隷として捕まった時はまだ冷静な自分でいられたと思う。
しかしイガ将軍に救い出された時のような賭け。また現地情報が揃えられぬ状況でのヤンマ大王へ
大見得を切ってしまったことなどもっと自分に有利な道はあったのではないかとも思う。
最短で攻略しろ。
だが絶対に失敗するな。
俺を苦しめた言葉は今や俺の思考の一部となってしまっているのかもしれないと思うと背筋を嫌な汗が流れた。
俺は一体何をしているのだろう。
自分で考え行動する。
ここに他者からの感情や刷り込みを入れる必要などないはずなのに……。
杖を強く握る手のひら。少しグリップが滑る。
自分の意のままにしているようで意のままにならない自分。
一瞬の迷い。
迷うなというのは他人から受けた命令のような気もする。しかし迷うというのが今の自分に必要なことだとは到底思えない。
俺はネクロパレスへの一歩を、そんな不安定な感情のまま踏み出してしまった。




