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空に消えた星くず達へ  作者: 中村なっちゃん
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4 絶望と後悔

 戦闘演習が行われてから一週間が経った。

 日常は普通に流れていき、生きるか死ぬかの瀬戸際に常に立っている高校だということを忘れそうなほどに平和だった。

 それでも入学して一週間で、同じクラスの人間が一人死んだ。特に仲が良かったわけでもなく、話したことも一度あるかないかぐらいの奴で、名前さえ覚えていない。クラス全員の名前と顔を覚える前に死んでしまった。死んでしまっても、周りはあっさりとしたもので、教師はその机を早々に片付けた。俺を含めるクラスメイトは、特に気にするような態度を見せることもなく、日常を繰り返した。

 ただ、細田だけがその机のあった場所で泣いていたのを見て、妙な罪悪感を覚えた。きっと、それが本来あるべき人間の姿のように思えたからだ。

 まぁそうは言っても、いよいよ俺たちも今日、戦いの本番に挑むことになったのだが。


「……で、あるからして、誕生石を持つ者は強大な力を得ることができ、シープとの戦いを大変有利にすることができる。次に……」

 黒板の前では教師が教科書を片手に、白いチョークで何かを色々と書いている。

 明は大きなあくびをしながら机に頬杖をつき、ノートにてきとうに落書きをしていた。

 この学校では国語、数学、理科、社会、英語の教科の他に、宝石学や戦闘術基本やシープの歴史や精神安定学や死の心構え~この世界に存在する数限りある命のために~などがある。あとは音楽や美術の時間なども普通にあり、体育もあるが体育の数は体を鍛えるためなのか、とても多かったりする。

 つまりは、こんな学校であったとしても授業風景は普通なのだ。

 今は宝石学の授業中であるが、真面目に授業を聞いている人間が大半の中、机につっぷして居眠りをしているような人間もいる。まぁ、真面目に勉強をしたところでどうせ死ぬのだからと考える人間は、学校全体で見れば少なくはないようだった。一応三ヶ月に一回くらいのペースで全教科のテストがあるらしいが、その成績が何かに響くというようなこともない。九十九パーセントが死ぬのだから、大学に行ける人間だってほとんどいないだろう。

 そんな中で俺は、別に悲観的な意味で不真面目なわけじゃないが、元々勉強があまり好きではないので、授業中に眠ったり、落書きをしていることが多かった。だから今日もそんな感じで落書きをしていたのだ。

 けれど教師の言葉を耳にして、ふと顔を上げた。

「えー、今日はエメラルドについての話をする。エメラルドは世界三大貴石の一つとされており、宝石ではダイヤモンドに次ぐ価値があると言われている。エメラルドの中では色の濃い物の価値が高く、透明度があっても色が薄い物より、濃いエメラルドグリーンで光沢の良い物が評価をされる。中でも珍しいのが中心から六方向に黒い筋の走る、トラピチュエメラルドと呼ばれているもので、これは……」

 明は顔を下げた。

 教師の話が興味のない専門的な話になってきたからだった。

 それでも机の上に広げていた教科書の、エメラルドの原石の写真が目に入る。透明度はない、けれども鮮やかな緑色のそれはとてもきれいだった。

 でもやっぱり、こんな写真より伊森先輩の持っていた剣の方がずっときれいだったなぁ。

 明はその写真の下に書かれている文章を何気なく読んだ。

 ”宝石としては比較的もろく、傷がないものはほとんど存在しない”

 明は頬杖をついたまま、ぼんやりとその言葉について考える。

 少しだけ、エメラルドの石のことを言っているのか、エメラルドの石を持つ人間のことを言っているのかわからなくなった。

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