大丈夫?
それからというもの、僕はどんな時にもアイのことを考えた。彼女の趣味は?休日の過ごし方は?すきな食べ物は?タイプの男は?何時間彼女のことを考えてもまるで飽きがこなかった。
それは一人の時に限らず、麻衣子といるときもそうだった。
僕が物思いにふけっていると彼女はいつだって不安そうに、
「大丈夫?」
と僕に言った。
はたして自分は大丈夫なんだろうか。それが僕にはよくわからず、
「多分。」
とだけ返事をした。
毎週日曜は麻衣子の部屋で過ごす約束だった。
なにをするでもなく、ただ日常にあったことを報告し合う。
猫柄のピンクのカーテンや、綺麗に揃えられた女性向け雑誌につつまれて、僕は彼女の話を聞いていた。
麻衣子は僕にいろいろな話を聞かせた。最近あったこと、勤め先の上司の愚痴、友達が妊娠したこと、いろいろあったと思う。
ぼくはその話たちに適当に相槌をうちながらどうしたらアイとまた会えるのか考えた。
「そういえばこの前ショッピングモールでたまたま会ったアイって覚えてる?」
麻衣子の口からアイという単語を聞いて僕の耳が、心が一気に麻衣子に集中する。
「あれからまた連絡取るようになってね、食事誘われたから行ってくるね。」
僕の心臓は高鳴りすぎて破裂寸前だった。
これでまたアイに会えるんだ。
「楽しんで。」
口元が緩み笑顔が溢れるのが自分でも分かった。
アイはどんな格好で来て、どんな仕草で喋るのだろう、それを考えただけで僕は興奮した。
ひとしきり喋った麻衣子は区切りがついたのか、トイレに行くと言って部屋を出ていった。
チャンスだと思った。
僕はすかさず机の上にあった麻衣子の携帯電話を手に取り、アイとのやりとりを見た。
アイのメールは彼女らしい簡素なのにどこかおおらかなものを感じさせる、愛らしいものだった。
今週の日曜日、駅前のカフェ…
僕はその二つをしっかりと覚えて麻衣子の携帯電話を机の上に戻した。
トイレから帰ってきた麻衣子はまた思い出したように、この前ゴキブリを見たこと、友達の彼氏がイケメンだってことなどを僕に話し始めた。
僕はまた麻衣子の話に相槌を打ちながら、アイの好みの服はどんなのだろうな、と考えふけっていた。
「大丈夫?」
とまた聞かれたので
「多分。」
と返しておいた。