アイミートアイ
「始めまして。」
その花が咲いたような笑顔に目を奪われた。
女性らしい華奢な腕も、屈託のない笑顔も、手に入れられるなら、なにをしても構わないと思った。
これが、運命というものの正体なのだと、その時僕は確信した。
アイを始めて見たのは、僕が付き合っている彼女、麻衣子の紹介だった。
麻衣子は一言で言えば「ザ・女の子」だと思う。化粧をしていない顔なんかなかなか見せてもらえない。毎朝長い髪を巻いて、長い爪に色を塗って、スタイルをよく見せるような露出の高い服を来てくるのだ。
僕は女の子なんてみんなそんなものだと思っていたし、麻衣子は家事やら掃除やらもテキパキとこなしてくれるので別段文句も無かった。
その日は、麻衣子の誕生日だった。
ショッピングモールで麻衣子の好きなモンブランを買った。麻衣子はクルクルの髪をふわふわさせて喜んだ。それを見て、僕も幸せな気持ちになった。
「…アイ?」
ショッピングモールの通路を歩いていると、麻衣子がつぶやいた。
なんの事だと僕も視線を合わせてみると、一人の女性が下を見て歩くのが見えた。
「アイ!!!」
麻衣子は間違いなく自分の知り合いだと理解出来たのか、周りを気にする様子もなくその女性に声をかけた。
アイと呼ばれたその女性は、ハッとしたように顔をあげ、ふわりと笑顔を浮かべてこちらに駆け寄って来た。
奇跡だ、と思った。
麻衣子の顔なじみらしい彼女は、麻衣子に宝石でも入っているみたいな目を向けて久しぶりにあった興奮を麻衣子と語り合っていた。
僕はそんな彼女に見とれるしかなかった。
短い髪も、ティーシャツにジーパンというラフな格好も、化粧を全くしていない顔も、全てが麻衣子とは違っていた。だけれども、僕はその全てに魅了され、圧倒され、運命を感じずにはいられなかった。
「あー、忘れてた。この人は彼氏の一!」
そう麻衣子が僕の紹介をすると、彼女の大きい目は僕を捉えた。時が止まった気がした。動き出さなければいいのに、と思った。
「始めまして。」
始めて僕に向けられた言葉も笑顔もきっと一生忘れない。
「よろしく。」
僕はそう言うとニコリと笑って見せた。
僕はアイを好きになった。