第二十一話(番外編):セラフィムとアポリア
お待たせしました! 連載再開します。
第1回戦をなんとかパーティー全員が生き残って勝ち上がった私たちは次の試合に備えて準備をしていた。そこに聞こえてきたルーレットの話を聞いて思わず「マジ!?」と口に出した私は悪くないと思う。まあ、声が大きかったので何人かから怒られることになったけど。
その空気も次の対戦相手が決まった途端、二つに分かれた。
一つは「あ、あのギルドか~」と楽しみにするモノ。
一つは「あのギルド!」と怒りを露わにするモノ。
私たちヴァルキリーの第2回戦の相手ギルドの名は『セラフィム』。
ギルドマスターは私と同じ鳥人族で、これまた同じように天使のような翼。実はこの翼、アバター設定の時に鳥人族を選ぶとランダムで選ばれる。
一番多いのは心ちゃん達のような所謂『鳥』の翼。これが全体の8割を占める。残り1.5割に当てはまるのが私のような『天使』の翼。なお、翼自体はデザインが違うだけで“飛べる”こと以外特に形状による能力の差はない。
そして残り0.5割に当てはまるのが『特殊』な翼。その代表例、というより唯一の成功例と言えるのが、セラフィムのギルドマスターであるアポリアさんだ。
大半の鳥人族プレイヤーと同じように弓を使うのだが、その命中率はCWO№.1とも言われている。噂だが、そのリアルは弓道強豪校の弓道部部長で全国大会優勝者だとも言われている。あくまで噂だが。
しかし、それ以上にアポリアさんが注目されるのが、背中の二対の翼だ。そう、本来なら一対になるはずの翼が、アポリアさんだけ二対あるのだ。
初めはアポリアさんも一対の翼だった。しかし本人曰く、翼を一切使わずエリア1最後のダンジョンを攻略した時に新たな一対の翼が生えてきたのだと言う。
ダンジョンといえど場所によっては飛ぶには十分の高度がある場所も存在する。そういう場所では、大抵の鳥人族は飛翔して上空から攻撃する。長所を生かした一種のセオリーともいえる攻撃手段だ。
さらに、鳥人族は防御面が他の種族よりも劣っているので囲まれたときや攻撃があまり効かない時などは飛翔して逃げたり相手の裏側に回ったりする。
それをせず、卓越した弓と護身用のナイフの攻撃だけで攻略したことで解放条件を満たしたらしい。しかし、この解放条件は最初に達成したプレイヤー限定だそうで、他のプレイヤーでも成功した者はいるも、だれも新たな翼は生えてこなかった。
そういうことで、アポリアさんは鳥人族では最も有名なプレイヤーで、そのアポリアさんが設立したギルド『セラフィム』も有名なギルドの一つだ。
なお、なぜかヴァルキリーとセラフィムはお互い対立していると言われている。同じ女性しかいないギルド同士ということらしいが、私としてはどうでもいい。
だが、実際にヴァルキリーの中にはセラフィムを嫌っているプレイヤーがいるし、セラフィムにも同じように考えているプレイヤーもいるそうだ。
その筆頭が、今回のイベントで臨時パーティーを組むことになったヴァルキリー副ギルドマスターの一人エリさんだ。剣と楯を装備するまさに戦乙女であり、常に真っ向勝負を求める騎士を目指している人で、アポリアさんの弓を使ったプレイにいちゃもんをつけている、正直仲良くなりたくない人№.1だ。どうプレイするかなんてその人の自由なのに。
しかし、彼女の意見に同意する人もおり、一部では確かにヴァルキリーVSセラフィムの抗争は勃発している。対照的にギルドマスター同士はとても仲が良く、私とカリンさん、そしてアポリアさんの三人で探検したこともある。
その経験もあるので、敵対した今とてもわくわくしている。自身をバトルジャンキーとは思っていないが、強者であるアポリアさんと戦えるのはすごく楽しみだ。
リングに上がり、お互いに中央に向かって歩く。向こうも第1回戦は一人も欠けること無く勝ち上がった。
一部は友人に会ったような気軽な感じで、一部はライバルと出会ったような緊張感がある。
「お久しぶり。今日はよろしくね」
「こちらこそ。お手柔らかに」
お互いのギルドマスターが声を掛け合う。と言ってもそれなりに距離があるので若干叫んでいると言った方が正しい。それを見て実況担当のクリスさんが「因縁の対決に会場のボルテージは最高潮です!」とか叫んでいるが、正直止めてほしい。ほら、見つめ合っていただけなのに火花がバチバチ言ってるし。
……良く見れば普段抗争に参加してないメンバーも火花を発している。もしかしてこの雰囲気にのまれちゃった?
「それでは、いよいよ試合開始です!」
クリスさんの声が聞こえてきたので弓と矢を準備する。まだ射る構えはしない。ここで構えちゃったら誰をターゲットにしているかバレちゃうからね。
少しの間の後、「試合、開始!」とクリスさんの声が聞こえると同時にリングに変化が起こる。どうやら今回も通常のリングではなさそうだ。
そして出現したのは…………毛虫? しかも全高がプレイヤーぐらいの大きさがあるほどデカイため、私の目と毛虫の目が合う。
しばらく呆然としていたが、毛虫は私を特に攻撃することも無く去っていった。良く見ればいくつか胴体があり、それぞれに足がある。なんか昔のゲームの映像で見たことあるような気がするけど、なんだっけ?
一体何だったのか周りに訊こうとして振り返ると、誰もいなかった。
そして立っていた場所には穴があった。
「さて、今回は地中ステージ! プレイヤーはアリの巣のように入り組んだ地中、つまり洞窟ダンジョンのような場所で戦ってもらいます。それぞれが孤立しているので先にメンバーを探したり、自分単騎でも突撃したりと攻撃手段は様々です。なお、地上に通じる穴もあり、地上でのバトルも可能となっております」
なるほど。でもなんで私だけ穴に落ちなかったの?
「……のはずだったのですが、なぜか一人だけ穴が発生しませんでしたね、タリサさん?」
「……後でお仕置きしておきますのでご心配なく」
「先輩……骨は拾っておきます」
まさかの運営トラブル!? まあ、これはこれでチャンスとしましょう。
《こちらエルジュ。運良く穴に落ちませんでした。これからどうしますか?》
リンクチャットを開きカリンさんに指示を仰ぐ。単独行動してもいいが、私の技量では確実に勝てると思えないし、アポリアさんと対峙したら間違いなくリタイヤだ。
《カリンです。なら、私が落ちてきた穴に潜ってほしいのですが……》
《どれかわかりません》
合流したいのはこっちも同じだが、どの穴も同じ大きさだし、誰がどこに立っていたかなんて覚えてない。
《アイテムでも落としてみますか?》
《それも手だけど、今落ちてきた穴がふさがったからどの道無理ね》
くそう運営め。どうせなら合流するまでトラブルが起こってくれればよかったのに。
《仕方ないわ。クリスさんの説明によれば地上に出られるらしいから、どこかにある地中への穴を探してちょうだい》
《了解》
さて、穴はどこになるかな? ついでに地上の探索もしておきますか。
エルジュです。先ほどから探せども穴が見つからないです。
エルジュです。せっかく見つけた穴の近くには他にも穴がありました。……最初の場所に戻っていました。
エルジュです。試合開始からすでに十分が経過しました。……未だ地上にいます。
エルジュです。最初の脱落者が出ました。幸いにも相手のパーティーでした。
「どこにあるのー!?」
さすがにそろそろ疲れてきたので一休みする。おそらくこれを見ている観客は笑っているだろうな。兄さんは……観戦してないんだっけ。確か必要な物があるからそれを買いに行くって言ったな。なぜか本人は「戦場に向かう」とか言っていたけど。
余談だが、この瞬間観客にいた何人はくしゃみの声を聞いていた。
休憩を終わらせ、次はどこに向かって進もうか考えていると【策敵】スキルが自分以外の何かが近くにいることを警告してくれた。
私は【弓】以外だとこの【策敵】スキルのレベルが一番高い。
空を飛べる、つまり相手の上空から攻撃できるのはアドバンテージだが、それは相手からも見つかりやすくなる。そのため、私はすぐに攻撃を察知できるように【策敵】のレベリングを重点的に行った。
【策敵】はランクアップしない珍しいスキルで、鍛えれば鍛えるだけ効果が向上するグロースキルだ。しかしLvが10になるごとに能力がさらに向上するのでグロースキルは別名レベルアップスキルとも呼ばれている。
【策敵】スキルに従い、反応があった方向に矢を向ける。地上には遮蔽物となるモノが少なく、この近辺には先ほど座っていた石しかないので真っ向勝負しかいない。
(どうかアポリアさんではありませんように!)
焦る気持ちを抑え、冷静になって矢に集中する。
そこで疑問に思った。
ここは遮蔽物が無い。当然相手も隠れる場所が無い。しかし相手はどこにもいない。
(一体どこから?)
そんな疑問に答えるように、私から少し離れた地面が盛り上がり、そこから例の毛虫が現れた。
作中の毛虫のイメージは某ジャンプするのが大好きなヒーローの作品に登場する〇ナちゃんです。わからない世代の人はお父さんに聞いてみよう♪
(多分知ってると思うので)




